八木宏之の時事ウォッチ
人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)
昨年2023年5月8日以降、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」になりました。それ以降徐々に人流が活発化し経済が回り始めましたが、それと同時に「人手不足」という言葉を耳にする機会が多くなりました。
人手不足による企業経営への悪影響が顕著になりはじめ、さらに物価上昇の影響も深刻になっています。こうしたなか、2024年2月26日に帝国データバンクから「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」が発表されましたので内容をみてみましょう。
人手不足割合は正社員で52.6%、非正社員も約3割
<帝国データバンク>
2024年1月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員が「不足」と感じている企業は52.6%で、前年同月比で0.9ポイント上昇し高水準となりました。
また、非正社員では29.9%となり、こちらは前年同月から1.1ポイント減少しましたが、引き続き約3割の水準で推移しています。
グラフの推移からも分かるように、過去最高値を更新するのも時間の問題といえるかもしれません。
正社員の場合:ITエンジニア不足の情報サービス、77.0%で過去最高を更新
正社員の人手不足割合を業種別にみると、主にIT企業を指す「情報サービス」が77.0%でトップとなりました。15カ月連続で7割以上と高水準が続いているなか、過去最高を更新する結果となりました。
その背景には旺盛なシステム関連需要があるものと思われます。「システム開発の案件が増えてきているが、人材不足で対応できず機会損失している。」など、人手不足がボトルネックとなっている現状が多くみられます。中には人材不足を補うためにシステムを導入したいが、そのシステムが分かる人材がいない、といった皮肉ともいえる状況も見受けられます。
また2位、3位には「建設」(69.2%)や活況なインバウンド需要が目立つ「旅館・ホテル」(68.6%)などが続き、10業種中8業種が6割台となりました。
【正社員・非正社員別の業種別人手不足割合】(帝国データバンク)
<正社員>上位10業種 <非正社員>上位10業種
非正社員の場合:飲食店が72.2%でトップ、人材派遣業も6割超と高水準
非正社員の人手不足割合を業種別にみると、「飲食店」が72.2%となり、前年同月から8.2ポイント減少と人手不足の緩和がみられたものの、引き続きトップとなりました。次いで「人材派遣・紹介」(62.0%)では人手不足の高まりによる需要増によって、派遣人材の不足が目立っています。以下、正社員でも上位となった「旅館・ホテル」(59.6%)など、小売・サービス業を中心に個人向け業種が上位に並びました。
2024年問題は既に顕在化。バス路線、全国8600キロ余が廃止!
2023年8月までの過去1年5カ月間に全国で合わせて8600キロ余りのバス路線が廃止されたと、昨年2023年11月24日にNHKが報じました。その原因のトップにあげられていたのはコロナ禍による利用者の減少でしたが、2番目に多いのは運転士不足でした。
さらに運転士不足という直接的な理由もさることながら、「人手不足で現状の形態では事業を維持できなくなるとか、将来に対する不安感から大量の退職者が発生している」という状況も生まれています。生活路線の運行に支障をきたす現象はすでに始まっており、生活に必要な「足」が無くなり、地域コミュニティーが崩れつつあると言っても過言ではありません。
賃上げが無理なら・・・
人材の確保・定着に欠かせない「賃上げ」ですが、昨年来多くの企業で賃上げが実施されています。しかしその中心は上場企業や大手企業で、中小、零細企業では賃上げをしたくてもできない状況が続いています。2024年も引き続きこうした傾向は続くでしょう。
人材不足というピンチに直面して「お金がないからできない」とあきらめるのか、それとも「お金以外のところで何かできないか」と考えていくのか。当然ながら両者には大きな差が生じるのではないでしょうか。
きらりと光る技術やユニークな商品の訴求、社長はじめ幹部と社員間の風通しの良さ、また社員同士仲が良いといった社風、やりがいの場を作り出すなど、経営者のみなさん自身ではなかなか気づきづらいけれど魅力的なものがきっとあるように思います。これを機に見つめなおしてみるのも良いかも知れません。
関連記事:
2023年3月29日 2023春闘、大企業の8割が「満額回答」、歴史的な賃上げ率の背景に人手不足
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その企業がどれだけ社会の中で評価され、価値をもつ存在と認められているかどうかは、「時価総額」※の指標で測ることができます。時価総額の推移、比較を通じて世界経済の実情や国ごとの業界の勢力図の変遷を見ることができます。
どのような企業がどの程度評価されているのか、そしてランキングがどのように変化しているのかをみることで、これからの社会を勝ち残るためのヒントを見出してみたいと思います。
※時価総額:「株価×発行済株式数」で求められる数値で、企業の価値や規模を評価する重要な指標のひとつ。
かつては世界のTOPプレーヤーだった日本企業
まずはじめに日本企業が世界でどれだけ評価されていたのか、昔と現在を比較してみます。そこで1989年(平成元年)と2023年現在の世界の時価総額を比較し、35年の間にどのような変化があったのかをひも解いてみます。
<1989年の世界の時価総額ランング> |
1989/12/31 |
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順位 |
企業名 |
億ドル |
国 |
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|
1位 |
NTT |
1,638 |
日本 |
|
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2位 |
日本興業銀行 |
715 |
日本 |
|
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3位 |
住友銀行 |
695 |
日本 |
|
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4位 |
富士銀行 |
670 |
日本 |
|
|
5位 |
第一勧業銀行 |
660 |
日本 |
|
|
6位 |
IBM |
646 |
アメリカ |
|
|
7位 |
三菱銀行 |
592 |
日本 |
|
|
8位 |
エクソン |
549 |
アメリカ |
|
|
9位 |
東京電力 |
544 |
日本 |
|
|
10位 |
ロイヤル・ダッチ・シェル |
543 |
イギリス |
|
|
1989年(平成元年)は、世界の時価総額ランキングTOP10社の中で、実に7社が日本企業でした。さらにそのうち1位~5位はすべて日本企業が占めていました。ところが35年後の2024年1月には下記のように変化します。
米国企業がダントツ、日本企業は30位圏外へ
<2024年の世界の時価総額ランキング> |
|
2024/1/31 |
|
順位 |
企業名 |
億ドル |
国 |
1位 |
マイクロソフト |
29,542 |
アメリカ |
2位 |
アップル |
28,679 |
アメリカ |
3位 |
サウジアラムコ |
19,550 |
サウジアラビア |
4位 |
アルファベット(A+C)※1 |
16,298 |
アメリカ |
5位 |
アマゾン・ドット・コム |
16,121 |
アメリカ |
6位 |
エヌビディア |
15,197 |
アメリカ |
7位 |
メタ・プラットフォームズ |
8,583 |
アメリカ |
8位 |
バークシャー・ハサウェイ(A+B)※2 |
8,326 |
アメリカ |
9位 |
イーライリリー |
6,129 |
アメリカ |
10位 |
テスラ |
5,965 |
アメリカ |
※1種類株A、Cの合計
※2種類株A、Bの合計
参考)トヨタ 3,263億ドル(30位圏外)
上記のように2024年1月末時点では、上位10社中9社はアメリカの企業が占めています。中でもその多くが超巨大IT企業と言われる企業であることが分かります。こうした世界規模で支配的な影響力を持つ巨大IT企業群は、通称ビッグテックと呼ばれています。残念ながら日本企業でTOP10入りしている企業はありません。TOP10どころか、日本国内では断トツ1位のトヨタ(時価総額 3,263億ドル)でさえランキングは30位圏外です。
変わり続ける勢力図(米国内) ~GAFAMからMATANAへ~
このように世界経済を牽引する米国企業たちですが、実はその時価総額の変遷を見てみるとランキングの順位が大きく入れ替わり、評価される企業が変化しています。ここでは詳しい比較は省きますが、長らくビッグテックと言えば、それぞれの企業の頭文字をとって「GAFAM」と言われた5社でした。それが現在は「MATANA」の6社へと変わっているのです。表にまとめると下記のようになります。
※1 Tesla(テスラ)はEV自動車メーカー
※2 Nvidia(エヌビディア)は画像処理に特化したGPUの半導体メーカー
比べて分かるようにFacebook(現Meta)が脱落し、代りにTesla(テスラ)とNvidia(エヌビディア)がランクインしました。このようにIT市場全体の拡大に伴い、その勢力図は徐々に変わり始めているのです。
ではこのMATANAはなぜGAFAMに変わる存在と言われているのか。GAFAMの一角を担っていながら、MATANAに入れなかったFacebook(現Meta)は一体どこに問題があったのでしょうか。
ビッグテックの一員から脱落したFacebook(現Meta)
長らく「ビッグテック=GAFAM」だった時代は終わり、代わりにこれからは「MATANA」の時代へと影響力を持つ企業の構成が徐々に変化しています。
なぜMetaが脱落したのかというと、その原因は同社のビジネスモデルにあります。Metaの現在のビジネスモデルは、同社が保有するSNSプラットフォーム「Facebook」と「Instagram」における広告収入を主な収益源としています。しかし、未来を見据える投資家たちの関心は、現状の広告収入モデル以外にどのようなビジネスモデルを構築できるかにあるのです。
社運を賭けて、社名の語源ともなった「メタバース」や「VRテクノロジー」に多額の投資を行ってきましたが、残念ながらそれらはまだ市場を変化させるほどのレベルには達していません。つまり、Metaはメタバースの実現などに関して具体的な形でこれからのビジネスを提示することができておらず、市場の期待に答えられていないのです。巨大なプラットフォームを有しているだけでは、ビッグテックに留まり続けることはできなかったのです。
勝ち残るためのヒント
時価総額のランキングの変遷から、主要企業がどのように変化しているのかをみてきました。特に今回は2024年以降も引き続き世界経済を牽引するであろうビッグテック勢力図の変化を中心にみてみました。
中小企業の経営者の方からみると、住む世界が違い過ぎてまるで他人事のように思われるかもしれません。しかし目指す目標は違えども、事業展開の考え方、取り組む姿勢には学ぶべき点があるのではないかと思います。
中小企業においてもそれぞれの業界で競争力を持ち続けるためには、ビッグテックのような戦略や考え方を持つことも有益と言えるのではないでしょうか。またそれは下記のように集約されるでしょう。
- 現状に満足せず、常に新たな価値を追求する
- 競合他社に対して十分な競争力を持つビジネスモデルを確立する
- ユーザーのニーズに合わせて提供する価値を模索し続ける
関連記事:
2011.1.12 米Time誌/2010最も影響力のあった人:フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏
令和6年(2024)1月の米株式市場で、マイクロソフトの株価が過去最高値を更新し、時価総額※1が一時初めて3兆ドルを突破した事がロイターなどで報じられ大きなニュースになりました。米新興企業オープンAIに出資するなど人工知能(AI)分野における競争優位性が評価されたものです。同社株はその後も値上がりしており、現在は3兆23億ドル(2月16日)となっています。
時価総額3兆ドルとは、現在の為替レート(1ドル=150円)で換算すると約450兆円となり、これは日本で時価総額ナンバーワンのトヨタ(約53兆円)のおよそ8倍強です。
(ちなみに2月15日に発表された2023年の日本のGDPは4.2兆ドルです。)
※1.時価総額とは、発行済み株式数 × 株価で表され、企業価値をはかる代表的な指標
トヨタとマイクロソフトの決算比較
ここでトヨタとマイクロソフトの決算内容を比較してみます。
トヨタは先日2月16日に、2024年3月期の第三四半期実積と通期見通しを発表したのでその通期見通しの数字を、またマイクロソフトは既に発表済みの2023年6月末の決算数字を用いて比較します。
両者の数字を表にまとめると下記のようになります。
◆トヨタとマイクロソフトの売上高・純利益の比較表
|
トヨタ (2024年3月通期予想) |
マイクロソフト (2023年6月末) |
売上高 |
43.5兆円 |
31.8兆円(2,119億ドル) |
純利益 |
4.5兆円 |
11兆円(726億ドル) |
※為替レートは1㌦=150円で換算
売上高はトヨタの方が多いですが、純利益ではマイクロソフトの方がトヨタの2.4倍と多い結果となっています。製造業とITといった業種の違いがありますが、あまりにも対照的な差です。
トヨタとマイクロソフトの時価総額の比較
さらに株式市場での企業価値を表す時価総額で比較してみると下記のようになり、その差は顕著に見て取れます。
◆トヨタとマイクロソフトの時価総額の比較
|
トヨタ |
マイクロソフト |
時価総額 |
56兆円 |
450兆円 |
※両者ともに2024年2月16日 終値ベース
※マイクロソフトは3兆23億ドル×150円として円換算
マイクロソフトの時価総額はトヨタの8倍にもなり、純利益の比較以上に時価総額では相当な開きがあることが分かります。マイクロソフトはどうしてそのような巨額な企業評価となるのでしょうか。それは米国の株式市場の巨大さも一因となっていると言えるでしょう。
日本と米国の株式市場の規模
米国の株式市場には世界中の資金が集まっているといっていいほどですが、日本と米国の株式市場の規模を比べてみます。日本は東京証券取引所の時価総額を、また米国にはNY証券取引所とナスダックという2つの大きな株式市場がありますので、米国は両取引所を合わせて比較すると下記の表のようになります。
◆東京証券取引所とNY証券取引所+ナスダックの時価総額の比較
|
東京証券取引所 |
NY証券取引所+ナスダック |
時価総額 |
931兆円 |
7,650兆円(51兆ドル) |
※東京証券取引所は2024年1月末現在
※NY証券取引所+ナスダックは2024年2月2日現在に1㌦=150円にて円換算
日米両国の株式市場の時価総額を比べてみると、米国は実に日本の8.2倍もの規模であることが分かります。こうして比較してみると、「資本」のパワー、ダイナミズムの差に圧倒されます。まさに大人と子供ほどの差と言っても過言ではありません。
また、NY証券取引所とナスダックの時価総額の合計は、世界全体の48.1%(2月2日時点)を占め、2003年以来の水準にまで拡大しています。
世界の資金の動きからみる成長分野
米国株式市場の活況の原因は、人工知能(AI)開発競争が世界各国で激化する中、米オープンAIが生成AI「Chat(チャット)GPT」を開発するなど米国企業がリードしているのも背景です。また米半導体大手エヌビディアは、生成AIを動かすのに必要な半導体チップでほぼ1強となり、世界時価総額ランキングで4位となりました。(2024年2月16日現在)
このように「株式の時価総額」という視点で世界の産業を見渡してみると、今後の成長分野が見えてきます。日頃は資金繰りや売上確保に奔走されている中小企業の経営者の方も、これからの成長分野や自社の企業価値について考えてみてはいかがでしょう。思えば20年前はFAXと電話、外出先ではポケットベルから、SNSやスマホが当たり前の社会です。人工知能(AI)生成AI「Chat(チャット)GPT」などは、使いこなそうと努力した企業だけ生き残れるのかもしれません。
企業価値の向上
企業価値を量る指標の一つに時価総額があります。時価総額とは前述の通り、「発行済み株式数×株価」で表されますので、常に「株価」が分かる上場企業の場合によく使われます。
一方未上場企業の場合、「株価」が簡単には分かりませんので、企業価値を量る方法はいくつかあります。その中の一つに「インカムアプローチ」という方法があります。
インカムアプローチとは、
<期待される利益(収益-費用)またはキャッシュフロー(収入-支出)に基づいて企業価値を計算する方法>
です。
簡単にいうと要するに損益計算書やキャッシュフローの黒字度合いによって企業を評価しようとする方法です。
自社の企業価値の向上のためにも日頃から損益計算書やキャッシュフローを意識した経営をすることも重要です。
次回は、日本や世界のTOP企業の変遷について分析してみましょう。
先日(令和6年1月19日)帝国データバンクからゾンビ企業に関する最新の統計データが発表されました<※1>。 同社が保有する企業財務データベース(2023年11月時点)において、「3 年連続で ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)<※2>が判明、かつ設立10年以上」の企業は10万1478社。このうち、「3年連続でICRが1未満、かつ設立10年以上」の企業は1万7387社を数え、この2つの数値をもとにゾンビ企業率を算出すると17.1%にのぼることが判明しました。
また同社の登録企業数約147万社をもとにゾンビ企業率17.1%を掛け合わせると、2022年度のゾンビ企業数は25万1000社にのぼると推計されます。これは2011年に次ぐ2番目の多さとなりました。
ゾンビ企業とは
日本国内では一般的に、金融機関の支援がないと会社の維持が不可能な企業のことをゾンビ企業と言っています。但し国際的な基準もあって、国際決済銀行(BIS)<※3>では、「3年連続でICRが1未満、かつ設立10年以上」に該当する企業をゾンビ企業と定義しています。
今回の「ゼロゼロ融資」は、ゾンビ企業をそのまま生きながらえさせただけでなく、新たなゾンビ企業を生み出したのではないかという指摘もあるほどです。ICRとはなかなか聞きなれない言葉ですが、損益計算書で考えると分かりやすいでしょう。
一般的な損益計算書は下記のようになっています。
ICRは下記のように表されます。
この数値が1以下ということは、利息等の支払いを営業利益と受取利息・受取配当金では払いきれない、ということを意味します。
2022年度のゾンビ企業率17.1%は過去10年間で最も高く、東日本大震災後の2012年度17.0%と同水準です。この結果、日本企業全体の約6社に1社で企業の"ゾンビ企業化"が進んでいるとの見方もできます。
さらに2023年度のゾンビ企業数は、前年を上回り2011年度の27.1万社を上回ると予想されています。
<※1>「ゾンビ企業」の現状分析(2023年11月末時点の最新動向
<※2>. BIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)は、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部があります。BISには、2022年(令和4年)6月末時点で、わが国を含め63か国・地域の中央銀行が加盟しています。日本銀行は、1994年(平成6年)9月以降、理事会のメンバーとなっています。
<※3> ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)とは、【営業利益・受取利息・受取配当金の合計】を【支払利息・手形割引料の合計】で割った数値のことで、インタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回るというのは、本業での収益より利息等の支払いが多いことを意味します。つまり、借入(負債) が重くのしかかっていて事業の継続が難しい状態にある企業のことです。
業種別で「小売」、地域別で「東北」、従業員数別で「5人以下」がゾンビ企業
2022年度のゾンビ企業率を業種別にみると、「小売」が27.7%と最も高く、次いで、「運輸・通信」が23.4%、「製造」が17.8%となりました。2021年度に比べると、全業種でゾンビ企業率が高まっており、これら3業種は全体平均の17.1%を上回りました。
従業員数別では、「5人以下」が25.1%で最も高く、「6~20人以下」が18.7%で続きました。他方、「1000人超」は2.8%と最も低く、総じて従業員数が少なくなるにつれて、ゾンビ企業率が高まる傾向にあるといえます。
地域別では、「東北」(21.3%)と「中国」(20.2%)がそれぞれ2割を超える。 地域別では、「東北」(21.3%)と「中国」(20.2%)がそれぞれ2割を超えました。なかでも「東北」は、東日本大震災後の各種金融支援策の影響もあり、震災から10年経った今もなお借り入れ負担が重荷になっています。他方、「関東」(14.8%)が最も低く、とりわけ「東京」は12.9%と都道府県別で最も低い水準となりました。 政府・金融機関の支援姿勢の変化 政府は昨年11月、金融機関による事業者支援の軸足を「コロナ禍の資金繰り支援」から「経営改善・事業再生支援」に移す姿勢を鮮明にしました。金融機関の取り組みを推進すべく、金融庁は今春に金融機関向けの監督指針を改訂する方針です。ゼロゼロ融資で膨らんだ過剰債務に苦しむゾンビ企業への金融機関の対応も、今後はこれまでの安易なリスケジュールによる返済猶予や、借り換えを繰り返すことが事実上難しくなる時代がすぐそこまで来ています。 ゾンビ企業に対する日銀の利上げの影響 日銀の金融政策は、目先は現状維持との見通しですが、エコノミストの約6割は4月会合でのマイナス金利解除を予想しています。金利の上昇は、企業にとっては借入金の利払い負担が増すことを意味します。いざ利上げとなり慌てるよりも、この機会にもう一度現在の借入条件などを確認し、できれば金利変動による金融コストの影響の有無について事前に把握しておくことが望ましいです。 インフレ、円安、人手不足 インフレによる燃料高をはじめ円安の影響による原材料高や人手不足によって人件費高などさまざまなコスト増の対応に苦慮している中小企業の経営者の皆さんにとっては、今よりもさらに資金繰りを苦しめることになります。計画的な資金繰りと各種資金調達の手段が必要となってきます。今までの金融常識や成功経験から「いつかいつか」と思っている経営者、管理者の皆さん、売上よりも利益確保経営に軸足を置きましょう。 ●関連記事: 2022.12.01 「ゼロゼロ融資」の借り換え保証制度が新設、令和の徳政令なるか? 2022.12.30 2021年度の「ゾンビ企業」率が急上昇、コロナ関連支援が影響か |
近年「公租公課倒産」や「社保倒産」なる言葉が見受けられるようになってきました。
聞き慣れない言葉なので何のことかピンと来ない人が多いでしょう。
「公租公課倒産」や「社保倒産」とは、社会保険料や税金などの公租公課の滞納が要因となった企業の倒産のことです。多額に上る公租公課の滞納や延滞金の未納により、自社の預金口座や土地などの資産を差し押さえられ、経営に行き詰まった「公租公課倒産」は、近年驚くほど多く発生しているのです。
公租公課の滞納状況
帝国データバンクの発表によると、厚生年金保険を含む社会保険料を滞納している事業所は、22年度末時点で14万811事業所に上り、適用事業所全体に占める割合は5.2%を占めました。前年度に比べて滞納事業所数は減少したものの、依然として多くの企業が納付に苦慮する状態が続いているといえます。
社会保険料や各種税金の納付は、社会保障制度を維持・継続するために企業が公平に負う義務であり、仮に差し押さえ等で事業継続に行き詰まる企業が増加したとしても、年金事務所等の責めに帰すことはできません。ただ現状は、足元の円安や資源高による物価高などの影響も重なり、社会保険料の支払い催促に対して弁済可能な資金を有する中小企業は決して多くありません。従って社保や税金滞納分の支払い見込みが立たず、事業継続を断念するケースは今後さらに増えていくことが予想されます。
年金事務所の態度が硬化した?
厚生年金や健康保険などの社会保険料の徴収を担当しているのは、皆さんもよくご存知の通り日本年金機構(以下、年金機構という)で、その実務を担当しているのが全国に312ヵ所ある年金事務所です。
最近経営者の方たちから、「年金事務所の態度が冷たくなった」という趣旨の言葉を耳にすることが多くなりました。「冷たくなった」とは、今までは交渉の中で、例えば「納付をもう少し待って欲しい」とか、「納付額をもう少し減額して欲しい」といった企業側の条件をある程度受け入れてくれていたが、最近は一切条件を認めてくれない、ということを指しているのでしょう。
本当に「冷たくなった」のでしょうか。それは年金機構の行動原理や運営方針を見てみれば答えはシンプルです。結論を先に述べると「徴収に対するスタンスが元に戻りつつある」です。
日本年金機構
ここで年金機構という組織のことを少し説明します。
年金・健康保険行政は従来は社会保険庁が担っていました。ところが、詳しくは割愛しますが、2000年に入ると「予算の無駄使い」や「消えた年金問題」といった諸問題が発覚し、同庁は社会的に大きな非難の的となりました。結果同庁は解体されることになり、その業務の受け皿となる組織として2010年に発足しました。
同機構は、一般企業ではごく当たり前ですが、期初に目標を掲げ、期末に総括するという活動をしています。そこで同機構がどのような目標を掲げて日々活動しているのか、ということを知ることで同機構のスタンスを知ることができます。
日本年金機構の5大業務
年金機構は、1.「適用・調査業務」、2.「保険料徴収業務」、3.「年金給付業務」、4.「相談業務」、5.「記録管理・提供業務」の5つを5大業務としています。いまは特に経営者の皆さんにとって関心の高い2.「保険料徴収業務」について令和4年度と令和5年度の計画についてどのような違いがあるのか見てみましょう。
厚生年金保険・健康保険等の保険料徴収対策 | |
令和4年度 | 令和5年度 |
・・・(前略)令和4年度においても、法定猶予制度の効果的な活用を図り、引き続き事業所の存続を図りつつ、新規発生保険料以上の納付を促す等、適切に納付計画を策定し、履行管理を行うことにより、安定的な保険料収納の確保と収納率の向上を図る。 また、法定猶予制度の適用を受けた事業所の履行管理や滞納事業所への対応に注力するための徴収体制の強化、システムの効率化を実施し、専門性の高い徴収職員を育成する。 | ・・・(前略)令和4年度においては、法定猶予制度の適用を受けた事業所(以下「法定 猶予事業所」という。)からの保険料収納を確保するため、新規発生保険料以上の納付計画を基本とした運営を順次進めるとともに、納付協議に応じない事業所には滞納処分を実施することにより、収納率の向上が図られている。 新型コロナウイルス感染症の拡大前(令和元年度)の徴収実績への回復を見据え、令和5年度においても、法定猶予制度の適用も含め、納付に重点を置いた徴収対策を着実に実施し、公正かつ公平な保険料収納の確保を図る。 |
このことから、年金機構としてはコロナ禍は既に過ぎたことで、いまは「平時」を前提にして行動していることが分かります。
日本年金機構による差し押さえ事業所数の推移
こうしたことから、差し押さえがきっかけの「公租公課倒産」が増えてきているわけです。
最後に
ここまで説明してきた通り、年金機構の徴収スタンスは明らかにコロナ以前への回帰がみらます。今後新型コロナの感染症の扱いが再び2類になるなど社会的混乱が再来すれば別ですが、この「コロナ以前への回帰」の動きが緩まる事はないでしょう。経営者としては、そういう認識で対応にあたらなければなりません。
全国の最低賃金ついに1000円台に!
※出典:厚生労働省
10月に入り、全国の各都道府県で2023(令和5)年度の最低賃金の改定が行われました。最低賃金額は、高い順に1位が東京都の1,113円、2位が神奈川県の1,112円、3位が大阪府の1,064円。このほかに、1,000円越えは、埼玉の1,028円、愛知の1,027円、千葉の1,026円、京都の1,008円、兵庫の1,001円と5つあり、8都府県となりました。
最低賃金は、最低賃金法の第9条基づいて、最低賃金は各都道府県で設定され、賃金の最低ラインを確保するための重要な要素となっています。そのため、法律で定められた最低賃金以下の賃金で労働者を雇用することは、違法とされています。
しかしその一方で、最低賃金の改定は、労働市場に大きなインパクトを与えています。最低賃金の引き上げが中小企業に与える影響は大きく、特に派遣会社はスタッフの派遣コストの上昇を、契約単価への転嫁は思いのほか難しいといった課題が浮き彫りになっています。
最低賃金引き上げが中小企業に与える深刻な影響
茨城県の大学生は「アルバイトをするなら、千葉。なんなら、東京まで行ってもいい」と言います。最低賃金は東京都が1,113円、千葉県が1,026円なのに対し、茨城県は953円だからです。 このように、最低賃金の引き上げが中小企業にもたらす影響は決して小さくありません。
具体的には、
①経営コストの増加:最低賃金の引き上げに伴い、中小企業は労務費の増加はぬぐえません。これによりコストが上昇し、収益への影響は避けられないでしょう。特に、中小企業にとっては、賃金の増加が企業の継続に何らかの影響を及ぼす可能性があります。
②価格転嫁の難しさ:中小企業は大手企業ほどの価格の競争力が低いため、賃金の引き上げを価格に転嫁することが難しい現状があります。競争が激しい業界では、価格を引き上げることが難しく、企業は賃金上昇に対応するための戦略を模索せざるを得ません。
③雇用の縮小と労働力不足:中小企業が賃金を上げることが難しい場合、雇用の確保も難しくなり、雇用の削減や新たな労働力の採用を制限せざるを得なくなります。まして、昨今の日本では労働力の不足が明らかです。
④生産性向上の必要性:賃金上昇に対応するため、中小企業は生産性向上や業務の効率化にすばやく取り組なければなりません。これにはそれなりの投資や従業員スキル向上、すなわち生産性の向上喫緊の課題といえます。
こうした課題は、それが短期的なであれ、長期的な影響であれ、中小企業にはこれからを生き残るために多角的な戦略と柔軟性がすなわちDXが求められます。
生き残るための戦略、中小企業が取るべき行動とは?
では、最低賃金引き上げという現状の中、中小企業はどんな戦略を取ったらいいのでしょうか?
まず考慮すべきは、補助金と税制の活用です。国や地方自治体が提供する助成金プログラムに申請することで、人件費の負担を軽減することが可能です。また、税制上の優遇措置もあるので専門家と相談しながら、すぐに着手できることろから計画を練るべきです。
次に、人材育成が重要です。従業員のスキルを高めることで、生産性の向上を図り、賃金上昇の影響を最小限に抑えることができます。専門的な研修やOJTを充実させることで、質の高いスタッフが増えれば高いサービス提供が可能となります。
そのほか、価格戦略の見直しや地域密着型ビジネスへの転換も欠かせない取り組みでしょう。賃金が上昇すると、そのコストは避けて通れません。そのため、価格の柔軟性を持たせ、付加価値の高い商品やサービスを提供することで、顧客に価格上昇を納得させる戦略が必要です。
また、地域密着型ビジネスの強化を考えることで、地域社会との連携を深め、リピートビジネスや口コミによる新規顧客獲得を図ることができるかもしれません。
補助金と税制、人材育成、価格戦略、そして地域密着型ビジネスの組み合わせによって、最低賃金の上昇に柔軟に対応する戦略を立て、事業の持続性と成長を確保することが可能です。
最低賃金1000円時代と2024年問題、人材不足、インフレ
中小企業にとって、最低賃金の一律な引き上げは経営にとっては何らかの対策を余儀なくされます。特に中小企業にとっては経営を圧迫し、雇用の削減や原材料価格の上昇を余儀なくされる可能性が高いからです。さらに今日の物価上昇と絡むことでスタッフの実質賃金が向上しない場合もあり、その結果、中小企業そのものが厳しい状況に置かれることになりかねません。
政府も、中小企業に対する支援策を最低賃金の引き上げと並行して立案するが望ましいといえます。具体的には、生産性向上のための補助金、研修プログラム、税制優遇など、経営にかかわる多角的な支援制度が求められています。
結局、最低賃金の引き上げは時代の要請に過ぎないと考えるべきです。中小企業、政府、自治体が、最低賃金の引上げだけに終始せずに、インフレや人材不足ひいては円安など、日本全体が置かれている状況をどう乗り越えるか企業単位、地域単位、業界単位での対策と、運輸業界の暗い影を残している2024年問題と絡めて、最低賃金の1000円時代の会社経営を模索する機会にしていただきたいものです。
2024年4月、日本の物流業界は大きな転換点を迎えます。新たな労働法規制が施行され、トラック運転手の時間外労働が年間960時間に規制強化されます。つまり、1ヵ月の時間外労働の上限は平均80時間となるわけです。これは現行の残業上限から19時間短縮する計算で、東京〜大阪間の往復輸送時間に相当します。そのため、事業者は運行本数を減らすかドライバーを増やす必要があり、一部では、最大4割の事業者が倒産・廃業するといわれています。
今回は、この「物流2024年問題」について、前編、後編に分けてお話しましょう。
トラックドライバーの労働時間制限と物流業界の未来
新たな労働法規制は、人手不足に悩んでいる物流業界にさらなるプレッシャーを与えます。トラック運転手の労働時間が制限されれば、この業界への新規参入が減ったり、トラック運転手が職を辞めたりする可能性も出てきます。そして、その結果、物流コストの増加、配送の遅延、または配送不能といった問題が発生するかもしれません。
特に、日本の物流業界はトラック事業者の99%を中小企業が占めているので、こうした変化に対処するための必要な資源や専門知識を持っていません。そのうえ、物流業界の多重下請け構造、運賃・料金の不透明性がこの問題をさらに複雑にしています。結果として、競争力の低下が起こり、最悪の場合、事業の継続が困難になる中小企業が出てくるでしょう。
このように「物流2024年問題」は、中小企業の経営者にとって避けられない問題です。政府の対応が遅れている現状では、中小企業の経営者自身が何らかの対策を講じ、業界全体での連携強化が求められます。
出典:国土交通省
物流革新緊急パッケージの期待と現実のギャップ
政府は「物流革新緊急パッケージ」を策定し、①物流の効率化、②荷主・消費者の行動変容、③商慣行の見直しを3本柱に据えています。しかし、前述したとおり、日本の物流業界の特徴として、トラック事業者の大多数が中小企業で占められており、政府の対策が想定どおりの効果をもたらすのは難しいといわざるをえません。政府の対策の中には、「物流経営責任者」の選任を義務付ける法制化も含まれていますが、補助金による支援方針はあるものの、初期投資の負担は中小企業にとって非常jに重く、導入が円滑に進むとは思えません。
また、政府は、荷待ち・荷物の積み下ろし時間の削減や荷物の積載率向上などの試算を行い、人手不足を補う計画を立てています。しかし、実際にこれらの対策が十分に効果を発揮するかは不明であり、政府の対応が後手に回っていると感じる中小企業経営者も少なくありません。
出典:内閣府
人手不足とコスト上昇がもたらす連鎖反応
物流業界は、人手不足とコスト上昇の波にさらされています。特にトラック運転手の不足は深刻で、中途採用の求人数が前年比で61%増となっています。この人手不足は、運賃の上昇に直結し、過去最高水準を更新し続けています。しかも、運賃の上昇は製品価格や宅配料金の値上がりとなり、消費者の負担増にもつながっています。
労働法の改正に伴う時間外労働の制限は、特に長距離輸送を行う企業に影響を与えています。これにより、交代要員の確保や休憩時間の取得が必要となり、労働時間の効率的な管理が求められています。企業は労働力確保のために給与を引き上げていますが、それに伴い運賃も上昇しており、この負のスパイラルは簡単には解消されないでしょう。
物流業界は燃料費の高騰も抱えており、これがさらに業界全体のコストを押し上げています。こうした問題は、利益率の低い物流業界にとって一大事であり、持続可能な解決策を見出すことが急務です。
労働力不足が引き起こす運賃の上昇
それでは、物流業界はいかにして労働力の確保行えばいいのでしょうか?
労働基準法の改正によりドライバーの労働時間が制限されるため、労働力不足の解消は容易ではありません。例えば、フジトランスポートは経験者を中心に70人のドライバーを採用し、さらに300人以上の中途採用を計画しています。しかし、厚生労働省の職業安定業務統計によると「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2.48倍であり、ドライバーの採用に苦戦している企業は少なくありません。
運賃の動向も物流業界における重要なファクターです。労働力の確保に伴うコスト上昇は運賃に直接反映され、トラック運賃は過去最高を更新し続けています。主要路線である東京〜大阪間の運賃は現在100キログラムあたり2850円前後で、これは過去最高値です。大手宅配業者であるヤマト運輸と佐川急便は、基本運賃を1割程度引き上げ、さらにヤマト運輸は年度ごとに運賃を見直す考えを明らかにしています。
これらの動向は、物流業界の構造的な課題を浮き彫りにしています。特に影響の大きい中小企業は、労働力の確保とコスト抑制の両立を図るための新しい戦略と解決策を模索する必要があります。
10月2日、日銀が公表した「全国企業短期経済観測調査(短観)」によれば、大企業製造業の景況感は前回の6月調査から4ポイント改善し、プラス9となり、特に自動車産業は10ポイント改善してプラス15を示しています。この改善の背景には、環境規制に対応した新型車の需要増加、および国際的なサプライチェーンの安定化があります。また、新興国での消費増加もこの業界に追い風となっています。食品などは円安・原材料高の影響を価格転嫁で吸収したことによる収益環境の改善が見られました。また、石油・石炭製品は20ポイント改善してプラス14となりました。一方で、半導体関連の需要の低迷が影響し、電気機械は4ポイント悪化しました。
※DI(Diffusion Index)とは 日銀短観で用いられる指標の一つで、企業が自らの業況を「良い」「普通」「悪い」といった形で評価する際の結果を集計し、その差を数値で表したものです。
非製造業は好調を維持も、明らかに人手不足
非製造業は引き続き好調を維持しており、大企業非製造業の業況判断DIは前回から4ポイント上昇してプラス27となっています。この上昇の背景には、テレワーク需要によるIT関連サービスの増加、国内外の観光業回復によるインバウンド消費の増加が寄与しています。
しかし、近年の人手不足は深刻で、受注を断らざるを得ない企業も出てきています。
先行きの業況判断について、大企業製造業はプラス10と前回より1ポイント上昇しており、非製造業はプラス21と前回より6ポイント悪化しています。製造業では自動車生産の回復が期待される一方、非製造業では原材料コストの上昇や人手不足の問題が懸念されます。
価格に関する動きとして、大企業製造業の販売価格判断DIは2ポイント悪化のプラス32、仕入れ価格判断DIは4ポイント悪化のプラス48となっています。
中小企業の業況判断と製造業、非製造業の動向
中小企業の業況判断は、製造業と非製造業で異なる動きを示しています。製造業の業況判断DIはマイナス5で、前回の調査と変わらない結果となっており、特に原材料コストの上昇や供給網の不安定さが影響を与えています。一方、非製造業の業況判断DIはプラス12で、前回の調査より1ポイント改善しています。新型コロナウイルスの影響緩和やインバウンドの増加が非製造業の中小企業における業況の改善に寄与しており、特に飲食やサービス業では消費者の支出回復や外出自粛の緩和が好影響をもたらしています。しかし、人手不足や円安による原材料コストの上昇といった課題は依然として存在しており、日銀短観ではこれらの要因が今後の中小企業の業況にどのように影響するのか課題となっています。
経済の回復傾向、しかし注意点も
今回の調査結果から、経済の回復傾向が続いていることが伺えますが、様々な要因による影響も考慮する必要があります。特に、非製造業の先行きには注意が必要とされています。
企業の消費者物価の見通しも引き続き注目されています。全規模全産業の1年後の見通し平均は前年比2.5%上昇、3年後の見通しは2.2%、5年後の見通しは2.1%となっています。これらの数値は、6月の調査結果とほぼ横ばいであり、政府・日銀の2%の物価上昇目標を上回っています。
また、企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは、全規模全産業で1ドル=135円75銭となっています。これは、6月調査時の132円43銭から円安(トルツメ)に傾いています。現在の円相場は、1ドル=149円台で円安に推移しており、これも企業の業績予想に影響を及ぼす可能性があります。
今回の10月2日日銀短観のデータは、おおむね経済の回復が続いていることを示していますが、非製造業の先行きは円安による原材料費の高騰、慢性的な人手不足、インフレ傾向など、引き続きすぐに対策しなければならない要因も多く存在しています。これらの要因が、中小企業の動向にどのように影響するか不明確です。中小企業の経営者は金融機関や政策をあてにせず、経済上昇の風に乗って自助努力して出来ることから始めましょう。
インボイス制度、スタート!誰が困る?
この10月から、ついにインボイス制度がスタートしました。
このインボイス制度は、個人事業主の負担が増えるため、弱い者いじめ、下請けいじめとも言われていますが、ここに来て、発注企業も、個人事業主とのスタンスをどう取るべきか、悩んでいるようです。
現在、年間売り上げ1千万円以下の事業者は消費税の納税義務が免除されており、この事業者のことを「免税事業者」と呼んでいます。これは、消費税導入時に小規模な事業者の事務負担が増えるという配慮から設けられた特例制度ですが、その問題点(公平性の問題、誤報告や不正取引の発生など)が指摘されてきました。
インボイス制度は、こうした問題点を解消する手段ではあるものの、下手をすると、発注企業も弱い者いじめ、下請けいじめに加担することになりかねません。
免税か課税か?ビジネスの岐路!
10月以降、個人事業主は、①インボイスを発行する課税事業者となるか、②免税事業者のままでいるか、どちらかを選択することになります。
しかし、①の場合は、これまで免除されていた消費税の納税義務が生じ、負担が増えます。②の場合は、発注企業は仕入税額控除(仕入れにかかった消費税を差し引ける)を受けることができないため、免税事業者は、取引金額の値下げを求められたり取引自体を打ち切られてしまったりする可能性があります。
いずれにせよ、インボイス制度によって、個人事業主は何らかの負担を強いられるのです。しかも、発注企業が個人事業主に対して一方的に取引金額の値下げを求めると、独占禁止法に違反する可能性(優越的地位の乱用)があり、たまったものではありません。
では、現段階で発注企業は個人事業主に対して、どんな対応を取ればいいのでしょうか?
発注企業ができる4つの対策
ここでは、具体的な4つの対応策を挙げたいと思います。
1. 信頼関係の構築と維持
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人事業主の技術やノウハウは、多くの発注企業にとって欠かせない価値があります。インボイス制度の導入による影響を軽減するためには、
発注企業が主導となって、信頼関係の構築・維持を図ることが必要です。
2. 研修やセミナーの開催
新しい制度に関する研修やセミナーを発注企業が主催することで、個人事業主の課税事業者への移行をサポートすることができます。税制変更に関する情報共有や、具体的な取引の見直しについてのアドバイスなど、発注企業からの積極的なサポートが求められます。
3. 取引条件の柔軟な見直し
取引条件の柔軟な見直しを検討することで、個人事業主の負担を軽減することが可能です。例えば、支払い条件の緩和や、長期契約の締結など、個人事業者の経営安定をサポートする施策を取り入れることが考えられます。
4. 金融機関や行政との連携
発注企業が金融機関や行政と連携を図ることで、個人事業主への資金繰りのサポートや、新たな制度に関する最新情報の提供など、より効果的な支援を実現することができます。
「2割特例」で制度変更をスムーズに!
なお、今回のインボイス制度導入に当たっては、激変緩和の観点から、開始から一定期間は「2割特例」という経過措置が取られています。これは、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、一定割合を控除できるというものです。
経過措置を適用できる期間と割合は、次のとおりです。
・令和5年10月1日から令和8年9月30日までは、仕入税額相当額の80%
・令和8年10月1日から令和11年9月30日までは、仕入税額相当額の50%
国は、こうした経過措置を取りつつ、なんとか個人事業主を課税事業者に移行させ、税の透明性を高め、税収を増やしたいのでしょう。しかし、前述したとおり、インボイス制度と独占禁止法の間で板挟みになっている発注企業は少なくないはずです。このような、発注企業に負担が集中するような仕組みはなんとかしてほしいものです。
メディア大騒ぎ! ストライキの背後に隠された真実
8月31日、1962年の阪神百貨店以来、百貨店としては実に61年ぶりに西武池袋本店でストライキが決行されました。この日、多くのテレビ番組やニュースは、そごう・西武労働組合の強い反発を取り上げました。また、地元・豊島区や、西武百貨店ファンが昔を懐かしむ声も多く伝えられました。
マスメディアは、労働組合や地元の意向を反映して、現状維持の必要性やその重要性を強調しているように感じられました。また、今後は労働組合のこうした動きが他業種にも広がっていくだろうとコメントした識者もいたようです。
しかし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のことわざどおり、それ以降、そごう・西武のニュースを報じるマスコミはほとんどありません。実際のところ、このストライキにはどれほどの意味があったのでしょうか?
セブン&アイの驚きの決断!西武売却の実情とは?
というのも、翌9月1日には、親会社であるセブン&アイ・ホールディングスが、米国の大手投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を2200億円で売却してしまったからです。一見、2200億円は巨額に見えますが、そごう・西武が抱える約3000億円の有利子負債を考慮すると、その実質的な譲渡価額はわずか約8500万円に過ぎないということも明らかになりました。
さらに、9月4日には、新経営陣から従業員に向けて、「そごう・西武新体制のスタートにあたって」という文書が配布され、「今後は経営と執行を分離するという新しい経営の形をとる」「事業の継続と雇用の継続が守られ、店舗閉鎖やリストラは行わない」「西武池袋本店については面積縮小を伴う全館改装を想定し、館全体のプランを見直す」といったことなどが伝えられました。
ヨドバシカメラ進出!西武池袋の未来と労働組合の闘い
近い将来、西武池袋本店には、家電量販店の大手、ヨドバシカメラが出店する予定です。この出店が実現すれば、現在のテナント、特に高級ブランドや地元の小売業者に影響が出るのは確実です。そして、この変動に伴い、余剰となる人員は、そごう・西武内での配置転換に加え、総合スーパーのイトーヨーカ堂などセブングループ内での異動が検討されることになるでしょう。
4期連続で赤字を出している会社に対して、労働組合が一貫して主張する「現状維持」のスタンスは、正直、非現実的であると言わざるを得ません。確かに、労働組合は元々、従業員の権利や待遇を守る目的で存在しています。しかし、経営が厳しさを増す中での過度な「現状維持」の主張は会社の存続を危機に晒すことになるし、現場で働く従業員の中にも、そうした声は少なくないでしょうか。
労働組合の"現状維持"主張に隠された危機!
経営改革は避けられない?
もちろん、今回の売却のプロセスでは、従業員や地元、さらに消費者というステークホルダーに対する配慮があまりに欠けていたかもしれません。しかし、未だ大きな経営改革を行わないまま「現状維持」を訴える労働組合の姿勢は、短期的な視点に過ぎると思います。
9月4日に配布された文書には、「借入金問題が解決し、店舗やシステムへの投資に再配分できるようになった今こそ、新しい経営戦略や効率化の取り組みが不可欠です」とも綴られています。
ECサイトの普及や消費の多様化などで、百貨店という業態が苦戦しているのは明らかです。だとしたら、労働組合も旧態依然とした考え方を改め、真の意味で経営陣と協力をしていかなければ、百貨店の未来を取り戻すことはできないでしょう。
[2023.9.29]