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八木宏之の時事ウォッチ

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人手不足に対する企業の動向調査(20241月)

昨年202358日以降、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」になりました。それ以降徐々に人流が活発化し経済が回り始めましたが、それと同時に「人手不足」という言葉を耳にする機会が多くなりました。

人手不足による企業経営への悪影響が顕著になりはじめ、さらに物価上昇の影響も深刻になっています。こうしたなか、2024226日に帝国データバンクから「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」が発表されましたので内容をみてみましょう。


手不割合は正社員で52.6%、非正社員も約3割


                                    <帝国データバンク>


20241月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員が「不足」と感じている企業は52.6%で、前年同月比で0.9ポイント上昇し高水準となりました。

また、非正社員では29.9%となり、こちらは前年同月から1.1ポイント減少しましたが、引き続き約3割の水準で推移しています。

グラフの推移からも分かるように、過去最高値を更新するのも時間の問題といえるかもしれません。


正社員の場合:ITエンジニア不足の情報サービス、77.0%で過去最高を更新

正社員の人手不足割合を業種別にみると、主にIT企業を指す「情報サービス」が77.0%でトップとなりました。15カ月連続で7割以上と高水準が続いているなか、過去最高を更新する結果となりました。

その背景には旺盛なシステム関連需要があるものと思われます。「システム開発の案件が増えてきているが、人材不足で対応できず機会損失している。」など、人手不足がボトルネックとなっている現状が多くみられます。中には人材不足を補うためにシステムを導入したいが、そのシステムが分かる人材がいない、といった皮肉ともいえる状況も見受けられます。

また2位、3位には「建設」(69.2%)や活況なインバウンド需要が目立つ「旅館・ホテル」(68.6%)などが続き、10業種中8業種が6割台となりました。


【正社員・非正社員別の業種別人手不足割合】(帝国データバンク)

        <正社員>上位10業種           <非正社員>上位10業種


非正社員の場合:飲食店が72.2%でトップ、人材派遣業も6割超と高水準

非正社員の人手不足割合を業種別にみると、「飲食店」が72.2%となり、前年同月から8.2ポイント減少と人手不足の緩和がみられたものの、引き続きトップとなりました。次いで「人材派遣・紹介」(62.0%)では人手不足の高まりによる需要増によって、派遣人材の不足が目立っています。以下、正社員でも上位となった「旅館・ホテル」(59.6%)など、小売・サービス業を中心に個人向け業種が上位に並びました。


2024年問題は既に顕在化。バス路線、全国8600キロ余が廃止!

20238月までの過去15カ月間に全国で合わせて8600キロ余りのバス路線が廃止されたと、昨年20231124日にNHKが報じました。その原因のトップにあげられていたのはコロナ禍による利用者の減少でしたが、2番目に多いのは運転士不足でした。

さらに運転士不足という直接的な理由もさることながら、「人手不足で現状の形態では事業を維持できなくなるとか、将来に対する不安感から大量の退職者が発生している」という状況も生まれています。生活路線の運行に支障をきたす現象はすでに始まっており、生活に必要な「足」が無くなり、地域コミュニティーが崩れつつあると言っても過言ではありません。


賃上げが無理なら・・・

人材の確保・定着に欠かせない「賃上げ」ですが、昨年来多くの企業で賃上げが実施されています。しかしその中心は上場企業や大手企業で、中小、零細企業では賃上げをしたくてもできない状況が続いています。2024年も引き続きこうした傾向は続くでしょう。

人材不足というピンチに直面して「お金がないからできない」とあきらめるのか、それとも「お金以外のところで何かできないか」と考えていくのか。当然ながら両者には大きな差が生じるのではないでしょうか。

きらりと光る技術やユニークな商品の訴求、社長はじめ幹部と社員間の風通しの良さ、また社員同士仲が良いといった社風、やりがいの場を作り出すなど、経営者のみなさん自身ではなかなか気づきづらいけれど魅力的なものがきっとあるように思います。これを機に見つめなおしてみるのも良いかも知れません。


関連記事:

2023年3月29日 2023春闘、大企業の8割が「満額回答」、歴史的な賃上げ率の背景に人手不足

2023年10月21日 [10月2日 日銀短観]円安、人手不足が顕在化し、全業種に影響

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勝ち残るためヒント

その企業がどれだけ社会の中で評価され、価値をもつ存在と認められているかどうかは、「時価総額」の指標で測ることができます。時価総額の推移、比較を通じて世界経済の実情や国ごとの業界の勢力図の変遷を見ることができます。

どのような企業がどの程度評価されているのか、そしてランキングがどのように変化しているのかをみることで、これからの社会を勝ち残るためのヒントを見出してみたいと思います。

※時価総額:「株価×発行済株式数」で求められる数値で、企業の価値や規模を評価する重要な指標のひとつ。


かつては世界のTOPプレーヤーだった日本企業

まずはじめに日本企業が世界でどれだけ評価されていたのか、昔と現在を比較してみます。そこで1989年(平成元年)と2023年現在の世界の時価総額を比較し、35年の間にどのような変化があったのかをひも解いてみます。

 

1989年の世界の時価総額ランング>

1989/12/31

順位

企業名

億ドル

 

1

NTT

1,638

日本

 

2

日本興業銀行

715

日本

 

3

住友銀行

695

日本

 

4

富士銀行

670

日本

 

5

第一勧業銀行

660

日本

 

6

IBM

646

アメリカ

 

7

三菱銀行

592

日本

 

8

エクソン

549

アメリカ

 

9

東京電力

544

日本

 

10

ロイヤル・ダッチ・シェル

543

イギリス

 

 


1989年(平成元年)は、世界の時価総額ランキングTOP10社の中で、実に7社が日本企業でした。さらにそのうち1位~5位はすべて日本企業が占めていました。ところが35年後の20241月には下記のように変化します。



米国企業がダントツ、日本企業は30位圏外へ

 

2024年の世界の時価総額ランキング>

 

2024/1/31

順位

企業名

億ドル

1

マイクロソフト

29,542

アメリカ

2

アップル

28,679

アメリカ

3

サウジアラムコ

19,550

サウジアラビア

4

アルファベット(AC)※1

16,298

アメリカ

5

アマゾン・ドット・コム

16,121

アメリカ

6

エヌビディア

15,197

アメリカ

7

メタ・プラットフォームズ

8,583

アメリカ

8

バークシャー・ハサウェイ(A+B)※2

8,326

アメリカ

9

イーライリリー

6,129

アメリカ

10

テスラ

5,965

アメリカ



1種類株ACの合計

2種類株ABの合計

参考)トヨタ 3,263億ドル(30位圏外)

 

上記のように20241月末時点では、上位10社中9社はアメリカの企業が占めています。中でもその多くが超巨大IT企業と言われる企業であることが分かります。こうした世界規模で支配的な影響力を持つ巨大IT企業群は、通称ビッグテックと呼ばれています。残念ながら日本企業でTOP10入りしている企業はありません。TOP10どころか、日本国内では断トツ1位のトヨタ(時価総額 3,263億ドル)でさえランキングは30位圏外です。

 

変わり続ける勢力図(米国内) ~GAFAMからMATANAへ~

このように世界経済を牽引する米国企業たちですが、実はその時価総額の変遷を見てみるとランキングの順位が大きく入れ替わり、評価される企業が変化しています。ここでは詳しい比較は省きますが、長らくビッグテックと言えば、それぞれの企業の頭文字をとって「GAFAM」と言われた5社でした。それが現在は「MATANA」の6社へと変わっているのです。表にまとめると下記のようになります。


1 Tesla(テスラ)はEV自動車メーカー

2 Nvidia(エヌビディア)は画像処理に特化したGPUの半導体メーカー

 

比べて分かるようにFacebook(現Meta)が脱落し、代りにTesla(テスラ)とNvidia(エヌビディア)がランクインしました。このようにIT市場全体の拡大に伴い、その勢力図は徐々に変わり始めているのです。

ではこのMATANAはなぜGAFAMに変わる存在と言われているのか。GAFAMの一角を担っていながら、MATANAに入れなかったFacebook(現Meta)は一体どこに問題があったのでしょうか。

 

ビッグテックの一員から脱落したFacebook(現Meta

長らく「ビッグテック=GAFAM」だった時代は終わり、代わりにこれからは「MATANA」の時代へと影響力を持つ企業の構成が徐々に変化しています。

なぜMetaが脱落したのかというと、その原因は同社のビジネスモデルにあります。Metaの現在のビジネスモデルは、同社が保有するSNSプラットフォーム「Facebook」と「Instagram」における広告収入を主な収益源としています。しかし、未来を見据える投資家たちの関心は、現状の広告収入モデル以外にどのようなビジネスモデルを構築できるかにあるのです。

社運を賭けて、社名の語源ともなった「メタバース」や「VRテクノロジー」に多額の投資を行ってきましたが、残念ながらそれらはまだ市場を変化させるほどのレベルには達していません。つまり、Metaはメタバースの実現などに関して具体的な形でこれからのビジネスを提示することができておらず、市場の期待に答えられていないのです。巨大なプラットフォームを有しているだけでは、ビッグテックに留まり続けることはできなかったのです。

 

勝ち残るためのヒント

時価総額のランキングの変遷から、主要企業がどのように変化しているのかをみてきました。特に今回は2024年以降も引き続き世界経済を牽引するであろうビッグテック勢力図の変化を中心にみてみました。

中小企業の経営者の方からみると、住む世界が違い過ぎてまるで他人事のように思われるかもしれません。しかし目指す目標は違えども、事業展開の考え方、取り組む姿勢には学ぶべき点があるのではないかと思います。

中小企業においてもそれぞれの業界で競争力を持ち続けるためには、ビッグテックのような戦略や考え方を持つことも有益と言えるのではないでしょうか。またそれは下記のように集約されるでしょう。

  • 現状に満足せず、常に新たな価値を追求する
  • 競合他社に対して十分な競争力を持つビジネスモデルを確立する
  • ユーザーのニーズに合わせて提供する価値を模索し続ける


 言い尽くされた当たり前のことばですが、やはりこうしたことは企業活動を続ける上で重要な考え方ではないでしょうか。洋の東西や業歴の長短などの違いはありません。経営者の考え方次第と言えるでしょう。日頃の経営のヒントになればと思います。
 

関連記事:

2011.1.12 米Time誌/2010最も影響力のあった人:フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏

 

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マイクロソフト時価総額3兆ドル

令和6年(2024)1月の米株式市場で、マイクロソフトの株価が過去最高値を更新し、時価総額1が一時初めて3兆ドルを突破した事がロイターなどで報じられ大きなニュースになりました。米新興企業オープンAIに出資するなど人工知能(AI)分野における競争優位性が評価されたものです。同社株はその後も値上がりしており、現在は323億ドル(216日)となっています。

時価総額3兆ドルとは、現在の為替レート(1ドル=150円)で換算すると約450兆円となり、これは日本で時価総額ナンバーワンのトヨタ(約53兆円)のおよそ8倍強です。

(ちなみに215日に発表された2023年の日本のGDP4.2兆ドルです。)

1.時価総額とは、発行済み株式数 × 株価で表され、企業価値をはかる代表的な指標


トヨタとマイクロソフトの決算比較

ここでトヨタとマイクロソフトの決算内容を比較してみます。

トヨタは先日216日に、20243月期の第三四半期実積と通期見通しを発表したのでその通期見通しの数字を、またマイクロソフトは既に発表済みの20236月末の決算数字を用いて比較します。

 両者の数字を表にまとめると下記のようになります。


◆トヨタとマイクロソフトの売上高・純利益の比較表

 

トヨタ

20243月通期予想)

マイクロソフト

20236月末)

売上高

43.5兆円

31.8兆円(2,119億ドル)

純利益

4.5兆円

11兆円(726億ドル)

※為替レートは1㌦=150円で換算


 

売上高はトヨタの方が多いですが、純利益ではマイクロソフトの方がトヨタの2.4倍と多い結果となっています。製造業とITといった業種の違いがありますが、あまりにも対照的な差です。

 

トヨタとマイクロソフトの時価総額の比較

さらに株式市場での企業価値を表す時価総額で比較してみると下記のようになり、その差は顕著に見て取れます。

◆トヨタとマイクロソフトの時価総額の比較

 

トヨタ

マイクロソフト

時価総額

56兆円

450兆円

※両者ともに2024216日 終値ベース

※マイクロソフトは323億ドル×150円として円換算


マイクロソフトの時価総額はトヨタの8倍にもなり、純利益の比較以上に時価総額では相当な開きがあることが分かります。マイクロソフトはどうしてそのような巨額な企業評価となるのでしょうか。それは米国の株式市場の巨大さも一因となっていると言えるでしょう。


日本と米国の株式市場の規模

米国の株式市場には世界中の資金が集まっているといっていいほどですが、日本と米国の株式市場の規模を比べてみます。日本は東京証券取引所の時価総額を、また米国にはNY証券取引所とナスダックという2つの大きな株式市場がありますので、米国は両取引所を合わせて比較すると下記の表のようになります。


◆東京証券取引所とNY証券取引所+ナスダックの時価総額の比較

 

東京証券取引所

NY証券取引所+ナスダック

時価総額

931兆円

7,650兆円(51兆ドル)

※東京証券取引所は20241月末現在

NY証券取引所+ナスダックは202422日現在に1㌦=150円にて円換算





 

日米両国の株式市場の時価総額を比べてみると、米国は実に日本の8.2倍もの規模であることが分かります。こうして比較してみると、「資本」のパワー、ダイナミズムの差に圧倒されます。まさに大人と子供ほどの差と言っても過言ではありません。

また、NY証券取引所とナスダックの時価総額の合計は、世界全体の48.1%22日時点)を占め、2003年以来の水準にまで拡大しています。


世界の資金の動きからみる成長分野

米国株式市場の活況の原因は、人工知能(AI)開発競争が世界各国で激化する中、米オープンAIが生成AIChat(チャット)GPT」を開発するなど米国企業がリードしているのも背景です。また米半導体大手エヌビディアは、生成AIを動かすのに必要な半導体チップでほぼ1強となり、世界時価総額ランキングで4位となりました。(2024216日現在)

このように「株式の時価総額」という視点で世界の産業を見渡してみると、今後の成長分野が見えてきます。日頃は資金繰りや売上確保に奔走されている中小企業の経営者の方も、これからの成長分野や自社の企業価値について考えてみてはいかがでしょう。思えば20年前はFAXと電話、外出先ではポケットベルから、SNSやスマホが当たり前の社会です。人工知能(AI)生成AIChat(チャット)GPT」などは、使いこなそうと努力した企業だけ生き残れるのかもしれません。




 

企業価値の向上

企業価値を量る指標の一つに時価総額があります。時価総額とは前述の通り、「発行済み株式数×株価」で表されますので、常に「株価」が分かる上場企業の場合によく使われます。

一方未上場企業の場合、「株価」が簡単には分かりませんので、企業価値を量る方法はいくつかあります。その中の一つに「インカムアプローチ」という方法があります。

 

インカムアプローチとは、

<期待される利益(収益-費用)またはキャッシュフロー(収入-支出)に基づいて企業価値を計算する方法>

です。

 

簡単にいうと要するに損益計算書やキャッシュフローの黒字度合いによって企業を評価しようとする方法です。

自社の企業価値の向上のためにも日頃から損益計算書やキャッシュフローを意識した経営をすることも重要です。

 次回は、日本や世界のTOP企業の変遷について分析してみましょう。

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増加するゾンビ企業~2022年は251000社に~

 先日(令和6119日)帝国データバンクからゾンビ企業に関する最新の統計データが発表されました<※1  同社が保有する企業財務データベース(202311月時点)において、「3 年連続で ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)<※2が判明、かつ設立10年以上」の企業は101478社。このうち、「3年連続でICR1未満、かつ設立10年以上」の企業は17387社を数え、この2つの数値をもとにゾンビ企業率を算出すると17.1%にのぼることが判明しました。

また同社の登録企業数約147万社をもとにゾンビ企業率17.1%を掛け合わせると、2022年度のゾンビ企業数は251000社にのぼると推計されます。これは2011年に次ぐ2番目の多さとなりました。

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                                                     帝国データ「ゾンビ企業」の現状分析より

                                                                                                           

ゾンビ企業とは

日本国内では一般的に、金融機関の支援がないと会社の維持が不可能な企業のことをゾンビ企業と言っています。但し国際的な基準もあって、際決済銀行(BIS<※3では、「3年連続でICR1未満、かつ設立10年以上」に該当する企業をゾンビ企業と定義しています。

今回の「ゼロゼロ融資」は、ゾンビ企業をそのまま生きながらえさせただけでなく、新たなゾンビ企業を生み出したのではないかという指摘もあるほどです。ICRとはなかなか聞きなれない言葉ですが、損益計算書で考えると分かりやすいでしょう。

 一般的な損益計算書は下記のようになっています。

図3.png

 ICRは下記のように表されます。

図4.png

 この数値が1以下ということは、利息等の支払いを営業利益と受取利息・受取配当金では払いきれない、ということを意味します。

2022年度のゾンビ企業率17.1%は過去10年間で最も高く、東日本大震災後の2012年度17.0%と同水準です。この結果、日本企業全体の約6社に1社で企業の"ゾンビ企業化"が進んでいるとの見方もできます。

さらに2023年度のゾンビ企業数は、前年を上回り2011年度の27.1万社を上回ると予想されています。

 

<※1「ゾンビ企業」の現状分析(2023年11月末時点の最新動向

<※2. BISBank for International Settlements、国際決済銀行)は、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部があります。BISには、2022年(令和4年)6月末時点で、わが国を含め63か国・地域の中央銀行が加盟しています。日本銀行は、1994年(平成6年)9月以降、理事会のメンバーとなっています。

<※3 ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)とは、【営業利益・受取利息・受取配当金の合計】を【支払利息・手形割引料の合計】で割った数値のことで、インタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回るというのは、本業での収益より利息等の支払いが多いことを意味します。つまり、借入(負債) が重くのしかかっていて事業の継続が難しい状態にある企業のことです。

 

業種別で「小売」、地域別で「東北」、従業員数別で「5人以下」がゾンビ企業

2022年度のゾンビ企業率を業種別にみると、「小売」が27.7%と最も高く、次いで、「運輸・通信」が23.4%、「製造」が17.8%となりました。2021年度に比べると、全業種でゾンビ企業率が高まっており、これら3業種は全体平均の17.1%を上回りました。

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従業員数別では、「5人以下」が25.1%で最も高く、「620人以下」が18.7%で続きました。他方、「1000人超」は2.8%と最も低く、総じて従業員数が少なくなるにつれて、ゾンビ企業率が高まる傾向にあるといえます。

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地域別では、「東北」(21.3%)と「中国」(20.2%)がそれぞれ2割を超える。

地域別では、「東北」(21.3%)と「中国」(20.2%)がそれぞれ2割を超えました。なかでも「東北」は、東日本大震災後の各種金融支援策の影響もあり、震災から10年経った今もなお借り入れ負担が重荷になっています。他方、「関東」(14.8%)が最も低く、とりわけ「東京」は12.9%と都道府県別で最も低い水準となりました。


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政府・金融機関の支援姿勢の変化

政府は昨年11月、金融機関による事業者支援の軸足を「コロナ禍の資金繰り支援」から「経営改善・事業再生支援」に移す姿勢を鮮明にしました。金融機関の取り組みを推進すべく、金融庁は今春に金融機関向けの監督指針を改訂する方針です。ゼロゼロ融資で膨らんだ過剰債務に苦しむゾンビ企業への金融機関の対応も、今後はこれまでの安易なリスケジュールによる返済猶予や、借り換えを繰り返すことが事実上難しくなる時代がすぐそこまで来ています。


ゾンビ企業に対する日銀の利上げの影響

日銀の金融政策は、目先は現状維持との見通しですが、エコノミストの約6割は4月会合でのマイナス金利解除を予想しています。金利の上昇は、企業にとっては借入金の利払い負担が増すことを意味します。いざ利上げとなり慌てるよりも、この機会にもう一度現在の借入条件などを確認し、できれば金利変動による金融コストの影響の有無について事前に把握しておくことが望ましいです。

インフレ、円安、人手不足

 インフレによる燃料高をはじめ円安の影響による原材料高や人手不足によって人件費高などさまざまなコスト増の対応に苦慮している中小企業の経営者の皆さんにとっては、今よりもさらに資金繰りを苦しめることになります。計画的な資金繰りと各種資金調達の手段が必要となってきます。今までの金融常識や成功経験から「いつかいつか」と思っている経営者、管理者の皆さん、売上よりも利益確保経営に軸足を置きましょう。


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近年「公租公課倒産」や「社保倒産」なる言葉が見受けられるようになってきました。

聞き慣れない言葉なので何のことかピンと来ない人が多いでしょう。

 「公租公課倒産」や「社保倒産」とは、社会保険料や税金などの公租公課の滞納が要因となった企業の倒産のことです。多額に上る公租公課の滞納や延滞金の未納により、自社の預金口座や土地などの資産を差し押さえられ、経営に行き詰まった「公租公課倒産」は、近年驚くほど多く発生しているのです。 

 

公租公課の滞納状況

帝国データバンクの発表によると、厚生年金保険を含む社会保険料を滞納している事業所は、22年度末時点で14811事業所に上り、適用事業所全体に占める割合は5.2%を占めました。前年度に比べて滞納事業所数は減少したものの、依然として多くの企業が納付に苦慮する状態が続いているといえます。

社会保険料や各種税金の納付は、社会保障制度を維持・継続するために企業が公平に負う義務であり、仮に差し押さえ等で事業継続に行き詰まる企業が増加したとしても、年金事務所等の責めに帰すことはできません。ただ現状は、足元の円安や資源高による物価高などの影響も重なり、社会保険料の支払い催促に対して弁済可能な資金を有する中小企業は決して多くありません。従って社保や税金滞納分の支払い見込みが立たず、事業継続を断念するケースは今後さらに増えていくことが予想されます。


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年金事務所の態度が硬化した?

厚生年金や健康保険などの社会保険料の徴収を担当しているのは、皆さんもよくご存知の通り日本年金機構(以下、年金機構という)で、その実務を担当しているのが全国に312ヵ所ある年金事務所です。

最近経営者の方たちから、「年金事務所の態度が冷たくなった」という趣旨の言葉を耳にすることが多くなりました。「冷たくなった」とは、今までは交渉の中で、例えば「納付をもう少し待って欲しい」とか、「納付額をもう少し減額して欲しい」といった企業側の条件をある程度受け入れてくれていたが、最近は一切条件を認めてくれない、ということを指しているのでしょう。

本当に「冷たくなった」のでしょうか。それは年金機構の行動原理や運営方針を見てみれば答えはシンプルです。結論を先に述べると「徴収に対するスタンスが元に戻りつつある」です。

 

日本年金機構

ここで年金機構という組織のことを少し説明します。

年金・健康保険行政は従来は社会保険庁が担っていました。ところが、詳しくは割愛しますが、2000年に入ると「予算の無駄使い」や「消えた年金問題」といった諸問題が発覚し、同庁は社会的に大きな非難の的となりました。結果同庁は解体されることになり、その業務の受け皿となる組織として2010年に発足しました。

同機構は、一般企業ではごく当たり前ですが、期初に目標を掲げ、期末に総括するという活動をしています。そこで同機構がどのような目標を掲げて日々活動しているのか、ということを知ることで同機構のスタンスを知ることができます。

 

日本年金機構の5大業務

年金機構は、1.「適用・調査業務」、2.「保険料徴収業務」、3.「年金給付業務」、4.「相談業務」、5.「記録管理・提供業務」の5つを5大業務としています。いまは特に経営者の皆さんにとって関心の高い2.「保険料徴収業務」について令和4年度と令和5年度の計画についてどのような違いがあるのか見てみましょう。

 

厚生年金保険・健康保険等の保険料徴収対策

令和4年度

令和5年度

・・・(前略)令和4年度においても、法定猶予制度の効果的な活用を図り、引き続き事業所の存続を図りつつ、新規発生保険料以上の納付を促す等、適切に納付計画を策定し、履行管理を行うことにより、安定的な保険料収納の確保と収納率の向上を図る。

また、法定猶予制度の適用を受けた事業所の履行管理や滞納事業所への対応に注力するための徴収体制の強化、システムの効率化を実施し、専門性の高い徴収職員を育成する。

・・・(前略)令和4年度においては、法定猶予制度の適用を受けた事業所(以下「法定 猶予事業所」という。)からの保険料収納を確保するため、新規発生保険料以上の納付計画を基本とした運営を順次進めるとともに、納付協議に応じない事業所には滞納処分を実施することにより、収納率の向上が図られている。

新型コロナウイルス感染症の拡大前(令和元年度)の徴収実績への回復を見据え、令和5年度においても、法定猶予制度の適用も含め、納付に重点を置いた徴収対策を着実に実施し、公正かつ公平な保険料収納の確保を図る。

 

このことから、年金機構としてはコロナ禍は既に過ぎたことで、いまは「平時」を前提にして行動していることが分かります。

 

日本年金機構による差し押さえ事業所数の推移

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同機構による差し押さえ事業所数の推移を見ると、2009年度は約8300社でその後ほぼ一貫して増加してきており、2019年度は33100社まで増加していきました。同機構によると、今年度は上半期(49月)だけで約26300社に上ります。半年で前年度1年分(約27800社)に達する勢いなのです。これはコロナ禍で猶予されていた保険料の徴収が本格化したためで、同機構が平時に向けたスタンスに切り替わっているのがデータからも読み取れます。

こうしたことから、差し押さえがきっかけの「公租公課倒産」が増えてきているわけです。

 

最後に

ここまで説明してきた通り、年金機構の徴収スタンスは明らかにコロナ以前への回帰がみらます。今後新型コロナの感染症の扱いが再び2類になるなど社会的混乱が再来すれば別ですが、この「コロナ以前への回帰」の動きが緩まる事はないでしょう。経営者としては、そういう認識で対応にあたらなければなりません。

景気は上昇傾向
日銀が発表した令和5年12月の短観(企業短期経済観測調査)を見ると、中小企業でもようやく景気判断が上向いてきたようです。景況感を「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた業況判断指数(DI)において、非製造業は2ポイント上昇のプラス14と続伸。長らく低調だった製造業も、6ポイント上昇してプラス1となりました。これは、大企業に比べて遅れが目立っていた価格転嫁に進展がみられた結果といえます。中小の製造業がプラス域を記録したのは、実に4年9カ月ぶりのことです。
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中小企業の製造業のDIは6ポイント上昇して、プラス1に


先行き不透明な景気
ただ、景気の先行きには不安も残ります。ウクライナ、イスラエル、中国など海外経済の不透明感、長引くインフレによる消費者心理の悪化など、懸念点は少なくありません。さらに、それ以上の問題が深刻な人手不足です。日本商工会議所が9月に公表した調査では、「人手が不足している」と回答した中小企業の割合はおよそ7割。中小企業の今年度の新卒採用計画も、予定した人数を確保できそうにないため、下方修正となりました。このままでは、人手不足が企業活動の足を引っ張り、せっかくの景況改善の流れを生かしきれなくなってしまいます。

人材確保を支援、2024年度の新たな減税制度
人材確保のためには、やはり賃上げが不可欠。しかし、大企業に比べて体力面で劣る中小企業にとって、賃上げは大きな負担となります。そこで期待されるのが政府の積極的な支援ですが、先日発表された2024年度の税制改革では、賃上げに伴う減税制度において、中小企業に配慮したさらなる優遇策が設けられました。

賃上げ分を法人税から控除
賃上げに伴う減税制度とは、簡単に説明すると、賃上げ分の一定割合を法人税から控除する仕組み。大企業の場合は、前年度から継続して給与の支給がある雇用者について、給与総額を3%以上増やせば増加分の10%、4%以上なら15%、5%以上なら20%、7%以上なら25%が法人税額から控除されます。これに対し、中小企業への条件は大幅に緩く、給与総額を1.5%以上増やせば増加分の15%、2.5%以上増やせば増加分の30%が法人税額から差し引かれることになっています。
しかも、中小企業の場合は、前年度からの継続雇用者だけでなく、今年度に新たに雇った従業員も含めた給与総額全体の増加を賃上げ率と見なしてくれるため、減税制度の対象となる企業の幅もかなり広くなります。例えば、賃上げは基準値未満しか行えなくても、従業員の新規雇用と組み合わせることで社員全体の給与総額を1.5%以上にすれば、法人税15%控除の恩恵を受けられますし、2.5%以上にすれば30%が控除されます。もちろん、賃上げせずに新規雇用のみで数値(従業員全体の給与総額増)をクリアしても税額控除の対象になるのです。

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最大でトータル45%もの税額控除
これに加えて、女性活躍や子育て支援に熱心な企業への控除枠も新設されました。厚生労働省が女性活躍企業に与える「えるぼし」と、子育て支援が手厚い企業に与える「くるみん」の認定企業が対象で、法人税額の控除率に一律5%が上乗せされます。また、リスキリング(学び直し)を実施する企業への優遇策も継続され、教育訓練費を前年度から5%増やした中小企業は10%の控除を積み増すことができます。

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中小企業は控除額、5年間持越し可能
このように、最大でトータル45%もの税額控除を受けられる今回の税制改革ですが、頑張って賃上げや採用をして減税対象となっても、赤字決算になってしまっては恩恵を受けられません。そこで、そうしたケースを想定して、税額控除率を繰り越しできる制度も新たに設けられました。こちらも、中小企業のみを対象にしたもので、5年間を上限として、当該年度の控除額を黒字になった決算期まで持ち越すことができます。これなら、目先の結果だけに一喜一憂することなく、ある程度長期的な展望のもとで賃上げや採用を行えるのではないでしょうか。


人材確保で黒字化目指そう
中小企業の経営は、大企業に比べて制約が多く、業種ごとに現在置かれている環境も異なりますが、今回の減税制度は、さまざまな立場の中小企業が効果的に活用できそうです。積極的に賃上げして即戦力の人材を確保し、需要を逃さず掴んで減税の恩恵も受けるというのが一番ですが、新人をしっかり教育し、数年後を目途に黒字を目指すといった地道な戦略にもぴったりです。

変革の時代を迎える中小企業経営者の皆さんへ
年の瀬も迫るこの時期、私たちは再び来年への準備を始めなければなりません。
2024年は、中小企業にとって重要な節目となることが予想されます。技術の進歩、市場の動向、そして社会の変化が、私たちのビジネス環境に新たな風をもたらしています。今回は、そんな中小企業経営者に押さえておいてほしい「2024年の注目キーワード10」をご紹介しましょう。
これらのキーワードは、来年の計画を立てる際に、皆さんのビジネス戦略に新たな洞察をもたらすはずです。2024年のビジネスシーンを先取りし、持続可能な成功への道を切り開いていきましょう。
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生成AI
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生成AIは、「ChatGPT」に代表されるような、自動で新しいコンテンツを生成する技術で、テキストだけでなく、画像、音声など様々なフォーマットに応用可能です。例えば、AIがニュース記事を書く、マーケティング素材を創造し作成する、顧客サービスでの自動応答を行うなどがあります。中小企業もこれらの技術を活用することで、コンテンツ制作のコスト削減や高度な顧客体験の提供が可能です。さらに、AIを活用することで、データ分析や意思決定のプロセスも強化でき、ビジネスをより効率的に進めることができるでしょう。AIは流行りの技術ではなく、いかに業務に取り入れていくかを考える時期に来ています。
 

デジタル通貨
デジタル通貨は、従来の現金に代わる新しい形態の通貨です。ビットコインなどの仮想通貨や、中央銀行が発行するデジタル法定通貨(CBDC)なども含まれます。すでに中国ではデジタル人民元の実用化が進んでおり、日本銀行もCBDCの検討を進めています。デジタル通貨が導入されれば、取引の透明性が高まり、決済コストの低減や処理速度の向上が期待できます。中小企業にとっては、デジタル通貨を導入することで、顧客基盤の拡大や新しいビジネスモデルへの適応が可能となり、競争力を高める一助となるでしょう。

 
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、企業のデータやシステムをサイバー攻撃から保護するための対策です。これには、ファイアウォールの設定、ウイルス対策ソフトの導入、データの暗号化、多要素認証の活用などが含まれます。また、従業員に対するセキュリティ研修を行い、フィッシング詐欺やマルウェアに対する意識を高めることも重要です。サイバーセキュリティの強化は、顧客データの保護と企業の信頼性維持に不可欠であり、特にデジタル化が進む現代においては中小企業にとっても無視できない課題です。


物流の2024年問題
「物流の2024年問題」とは、2024年4月に施行される働き方改革に伴い、物流業界が直面する労働力不足のことです。この改革により、長時間労働の是正や労働環境の改善が求められ、特にトラックドライバーの運行時間に関する規制が強化されます。中小企業においては、これが配送コストの増加や配送遅延につながる可能性があります。対策として、効率的な物流ルートの最適化、第三者物流サービスの利用、自動運転車やドローン配送などの新技術の導入が考えられます。中小企業はこの「物流の2024年問題」に対応することは喫緊の課題です。


KGI/KPI
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KGI(Key Goal Indicator)は「重要目標達成指標」、KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」と約され、昨今、ビジネスの現場で使われ始めています。KGIは長期的な目標や企業のビジョンに焦点を当て、KPIは短期的な成果や業務の効率性を評価します。例えば、KGIとしては年間の売上目標、KPIとしては月間の顧客獲得数や製品の品質改善率が挙げられます。これらの指標を設定し、定期的に評価することで、企業のパフォーマンス管理を効果的に行い、継続的な改善を促進できます。中小企業にとって、明確なKGIとKPIを持つことは、組織全体の目標に向かって効率的に進むための鍵となります。


レジリエント経営
resilienceとは、「回復力」のことです。そして、レジリエント経営とは変化に強く柔軟な経営体制のことを指します。具体的な対応としては、サプライチェーンの多様化やリスク管理の強化、事業の多角化などが挙げられます。中小企業にとって、レジリエント経営は危機に対する準備であるとともに、新しい機会を捉えるための基盤を築くことを意味します。絶えず変化するビジネス環境において、レジリエントな経営体制を考えることは企業経営者にとって避けて通れない重要な要素です。

 
ソーシャルメディアマーケティング
ソーシャルメディアマーケティングは、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)などのプラットフォームを利用した広告や顧客とのコミュニケーション戦略です。中小企業はこれを活用して、ブランドの認知度を高めたり、ターゲット市場と直接的に関わったりすることができます。例えば、インフルエンサーとのコラボレーションや、ユーザーが参加できるキャンペーンを実施することで、顧客エンゲージメントを促進し、製品やサービスの露出を増やすことが可能です。効果的なソーシャルメディア戦略は、中小企業にとって低コストで高リーチなマーケティング手段となり得ます。
 

サスティナビリティ
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サスティナビリティは、環境保護、社会的責任、経済的持続可能性を重視したビジネス運営を指します。例えば、環境に優しい材料の使用、エネルギー効率の良い製造プロセス、公正な労働慣行の採用などが含まれます。中小企業がサスティナビリティを重視することで、消費者からは信頼が得られ、長期的なビジネスの成功に繋がります。また、サステナブルなビジネスモデルは、規制の変更や市場のトレンドへの適応にも役立ちます。

 
ローカルエコノミー
ローカルエコノミーは、地域社会との連携を通じてビジネスを展開することです。地元の資源や市場を活用した製品やサービスの提供、地域企業や団体とのパートナーシップなどが含まれます。例えば、地元の農産物を使った飲食店や、地域の伝統工芸を取り入れた製品などが考えられます。中小企業にとって、ローカルエコノミーへの参加は、独自性の強化、地域社会との結びつきの強化、そして持続可能なビジネスモデルの構築にも寄与するでしょう。


オムニチャンネル
オムニチャンネル戦略は、オンラインとオフラインの様々な販売チャネルを統合し、一貫した顧客体験を提供することを指します。例えば、オンラインストア、実店舗、ソーシャルメディア、モバイルアプリなどをシームレスに連携させることで、顧客はどのチャネルを利用しても同じ品質のサービスを受けることができます。中小企業がオムニチャンネル戦略を採用すれば、顧客の利便性を高め、顧客ロイヤリティの向上や売上の増加に繋がります。

 

以上で挙げたキーワードは、中小企業経営者がこれからの時代を生き抜くために直面する、避けて通れない現代の課題でもあります。もちろん、これらがすべての中小企業に適用可能なわけではありません。各業種や個々の事業の独自の特性を深く理解した上で、関連性の高いキーワードを見極め、それらを自社のビジネスモデルにどのように取り入れ、活用していくかが重要です。そうすれば、2024年も、そしてそれ以降も、持続的な成長を遂げる企業へと変貌できるでしょう。この記事が、皆さんのビジネス戦略策定における一助となれば幸いです。

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 岸田政権は12月19日、4年ぶりにSDGs(持続可能な開発目標)の実施指針を改定しました。平成27年(2015)国連で採択されたSDGsは、令和12年(2030)を期限として、持続可能な17の国際目標(経済成長、貧困解消、環境保護など)の達成を目指すもの。日本政府が最初に実施指針を作ったのは平成28年(2016)で、内容を見直すのは令和元年(2019)に続き、2回目となります。
 今回の改訂では、SDGsの認知度が高まった現状を踏まえ、コロナ禍で減速した感のあるSDGs達成への努力を、再び加速させるという強い決意が示されました。国際社会への関わりや現在の経済政策との整合性も具体的に記載されましたが、従来からの政府の方針や政策に大きな変化があるわけではありません。つまり、今後ますますSDGsを意識し、積極的に関与した企業活動が求められるということです。

中小企業の成功例
 ただ、SDGsを意識した事業展開は、コスト上昇・効率低下などのリスクを伴うケースもあるため、経営基盤の脆弱な中小企業にとっては死活問題になりかねません。しかし、そこには同時に、ビジネスチャンスが潜んでいる可能性もあるのです。そこで、SDGsを活用して業績アップや企業価値の向上を実現した中小企業の成功例をいくつか紹介したいと思います。

処分していた大量の卵殻をエコ素材に転換
 株式会社SAMURAI TRADING(埼玉県桶川市、従業員5名)は、もともとは食品会社としてスタート。業務用デザートを生産する際に排出される卵殻を、毎日大量に処分していました。同社は、この捨てられる卵殻に着目。なんとか持続可能な資源に転換できないかと研究を重ねた結果、卵殻を60%使用したバイオマスプラスチック「PLASHELL」の開発に成功します。
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 さらに、卵殻10~50%をパルプ・填料の代替とした紙製品「CaMISHELL」や、卵殻比率55%の次世代バイオマス素材「Shellmine」も開発。これらの製品は、大手外食チェーンや大手ホテルチェーンなど、SDGsに積極的な企業から採用され、業績を大幅に伸ばす結果につながりました。渋沢栄一ビジネス大賞を2年連続受賞するなど、会社の知名度や評価も上がり、現在はパートナー企業や自治体と共同プロジェクトを展開するなど、活動の幅も広がっています。

社会問題になっていた空き家の廃材を活用
 株式会社山翠舎(長野市、従業員25名)は、1970年に長野県で木工所として創業されました。同社が目を向けたのは、地元で社会問題化し、次々と壊されていた空き家の古民家です。日本の伝統的な工法で建築された古民家には、現在では入手が困難な貴重な構造材(樹種、サイズ)が使用されています。廃材となる運命にあったそんな古材に着目した同社は、「古木(こぼく)」とネーミングして活用ビジネスを展開しました。
 具体的には、「古木」を生かした店舗内装の設計・施工と「古木」を使った家具の製作・販売です。歴史の重みを感じる「古木」の魅力は幅広い層に伝わったようで、設計・施工の受注はこれまで500件以上。長野県内だけでなく、首都圏からの受注も増加しているとのことです。家具も好評で、海外への展開も予定されています。また、「古木」ブランドの確立によって職人の若返りも進み、職人の5割が20~30代となりました。
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状態が良い古木は新材にも勝る強度を誇る


社会貢献や地域密着で企業価値や知名度が向上
 木内酒造株式会社(茨城県那珂市、従業員50名)は、江戸末期創業の老舗酒造メーカー。日本のクラフトビールの代表格で、海外での人気も高い「常陸野ネストビール」でも知られています。同社はもともとエコ意識が高く、酒製造の過程で排出される米や麦の粕を畜産業者に提供するなどの活動を行っていました。
 コロナ禍の時期には、飲食店の営業自粛で大量廃棄されるビールを集め、無料で蒸留を行って「クラフトジン」として返送する取り組みを実施。出荷されずに工場に蓄積されたビールは、手指消毒用の高濃度エタノールに生まれ変わらせて、自治体や医療機関に無償提供しました。また、ビール製造の過程で規格外として処分される大麦を活用したジャパニーズクラフトウイスキー「日の丸ウイスキー」を考案するなど、SDGsの理念に即した製品開発も行っています。これらの取り組みは多くのメディアに取り上げられており、同社の知名度はさらに向上。結果として、製品の売り上げもアップしています。

モノを捨てない、ムダにしない企業姿勢
 3社に共通しているのは「モノを捨てない、ムダにしない」という考え方ですが、流儀はそれぞれ異なります。SAMURAI TRADINGが自社の廃棄物をまったく別の資源に転換して活用したのに対して、山翠舎は地域の社会問題となっていた廃材に新たな価値を見出してそのまま利用しました。両者のアプローチは対照的ですが、どちらもビジネスチャンスを狙う明確な意図があり、直接大きなリターンを得ています。それに対して木内酒造の場合は、ビジネスというより社会貢献的な側面が強く、それが巡り巡って自社の評価を上げたという形です。このあたりは、経営が安定している企業ならではの考え方といえるでしょう。SDGsへの取り組み方に迷っている中小企業は、まず地域密着・社会貢献と割り切って始めるというのも一つの手かもしれません。令和6年(2024)は中小企業のSDGs取り組み元年にしたいものです。

全国の最低賃金ついに1000円台に!


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※出典:厚生労働省

 


10月に入り、全国の各都道府県で2023(令和5)年度の最低賃金の改定が行われました。最低賃金額は、高い順に1位が東京都の1,113円、2位が神奈川県の1,112円、3位が大阪府の1,064円。このほかに、1,000円越えは、埼玉の1,028円、愛知の1,027円、千葉の1,026円、京都の1,008円、兵庫の1,001円と5つあり、8都府県となりました。

最低賃金は、最低賃金法の第9条基づいて、最低賃金は各都道府県で設定され、賃金の最低ラインを確保するための重要な要素となっています。そのため、法律で定められた最低賃金以下の賃金で労働者を雇用することは、違法とされています。

しかしその一方で、最低賃金の改定は、労働市場に大きなインパクトを与えています。最低賃金の引き上げが中小企業に与える影響は大きく、特に派遣会社はスタッフの派遣コストの上昇を、契約単価への転嫁は思いのほか難しいといった課題が浮き彫りになっています。

 

最低賃金引き上げが中小企業に与える深刻な影響

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茨城県の大学生は「アルバイトをするなら、千葉。なんなら、東京まで行ってもいい」と言います。最低賃金は東京都が1,113円、千葉県が1,026円なのに対し、茨城県は953円だからです。 このように、最低賃金の引き上げが中小企業にもたらす影響は決して小さくありません。

具体的には、

経営コストの増加:最低賃金の引き上げに伴い、中小企業は労務費の増加はぬぐえません。これによりコストが上昇し、収益への影響は避けられないでしょう。特に、中小企業にとっては、賃金の増加が企業の継続に何らかの影響を及ぼす可能性があります。

価格転嫁の難しさ:中小企業は大手企業ほどの価格の競争力が低いため、賃金の引き上げを価格に転嫁することが難しい現状があります。競争が激しい業界では、価格を引き上げることが難しく、企業は賃金上昇に対応するための戦略を模索せざるを得ません。 

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雇用の縮小と労働力不足:中小企業が賃金を上げることが難しい場合、雇用の確保も難しくなり、雇用の削減や新たな労働力の採用を制限せざるを得なくなります。まして、昨今の日本では労働力の不足が明らかです。

④生産性向上の必要性:賃金上昇に対応するため、中小企業は生産性向上や業務の効率化にすばやく取り組なければなりません。これにはそれなりの投資や従業員スキル向上、すなわち生産性の向上喫緊の課題といえます。

こうした課題は、それが短期的なであれ、長期的な影響であれ、中小企業にはこれからを生き残るために多角的な戦略と柔軟性がすなわちDXが求められます。


生き残るための戦略、中小企業が取るべき行動とは?

では、最低賃金引き上げという現状の中、中小企業はどんな戦略を取ったらいいのでしょうか?

まず考慮すべきは、補助金と税制の活用です。国や地方自治体が提供する助成金プログラムに申請することで、人件費の負担を軽減することが可能です。また、税制上の優遇措置もあるので専門家と相談しながら、すぐに着手できることろから計画を練るべきです。

次に、人材育成が重要です。従業員のスキルを高めることで、生産性の向上を図り、賃金上昇の影響を最小限に抑えることができます。専門的な研修やOJTを充実させることで、質の高いスタッフが増えれば高いサービス提供が可能となります。

そのほか、価格戦略の見直しや地域密着型ビジネスへの転換も欠かせない取り組みでしょう。賃金が上昇すると、そのコストは避けて通れません。そのため、価格の柔軟性を持たせ、付加価値の高い商品やサービスを提供することで、顧客に価格上昇を納得させる戦略が必要です。

また、地域密着型ビジネスの強化を考えることで、地域社会との連携を深め、リピートビジネスや口コミによる新規顧客獲得を図ることができるかもしれません。

補助金と税制、人材育成、価格戦略、そして地域密着型ビジネスの組み合わせによって、最低賃金の上昇に柔軟に対応する戦略を立て、事業の持続性と成長を確保することが可能です。

 

最低賃金1000円時代と2024年問題、人材不足、インフレ

中小企業にとって、最低賃金の一律な引き上げは経営にとっては何らかの対策を余儀なくされます。特に中小企業にとっては経営を圧迫し、雇用の削減や原材料価格の上昇を余儀なくされる可能性が高いからです。さらに今日の物価上昇と絡むことでスタッフの実質賃金が向上しない場合もあり、その結果、中小企業そのものが厳しい状況に置かれることになりかねません。

政府も、中小企業に対する支援策を最低賃金の引き上げと並行して立案するが望ましいといえます。具体的には、生産性向上のための補助金、研修プログラム、税制優遇など、経営にかかわる多角的な支援制度が求められています。

結局、最低賃金の引き上げは時代の要請に過ぎないと考えるべきです。中小企業、政府、自治体が、最低賃金の引上げだけに終始せずに、インフレや人材不足ひいては円安など、日本全体が置かれている状況をどう乗り越えるか企業単位、地域単位、業界単位での対策と、運輸業界の暗い影を残している2024年問題と絡めて、最低賃金の1000円時代の会社経営を模索する機会にしていただきたいものです。

デジタルで乗り切る、中小企業の物流改革 
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2024年の新労働法施行は、中小企業にとって物流管理の再考を迫る大きな契機となります。特に、トラック運転手の時間外労働の制限は、運転手不足をさらに悪化させる恐れがあります。これに対応するため、多くの中小企業はデジタル技術の導入や新しい運営戦術を考える必要があるでしょう。
もちろん、労働条件の見直しも重要です。労働時間の制限に対応するため、ドライバーの働き方を見直し、休憩時間やシフトの最適化を図ることで、人手不足の影響を緩和する必要があります。
デジタル技術の利用では、効率的なルート計画や配送スケジュールの最適化により、ドライバーの労働時間を有効に利用し、コストを削減することが可能です。こうした先進的な技術の導入は、物流プロセスを劇的に変革する可能性を秘めています。将来は、人工知能(AI)や機械学習により、ルートの最適化や配送スケジュールの予測が可能となり、より効率的な運行管理が可能となるでしょう。また、自動運転技術が進展すれば、ドライバー不足の問題が緩和され、運営コストが削減できるかもしれません。
さらに、「モーダルシフト」や「中継輸送」のような戦術も重要です。モーダルシフトとは、トラックから貨物鉄道や船舶への輸送切り替えを意味し、中継輸送は複数のドライバーが配送を分担することで、労働時間の効率化を図るというものです。
中小企業が物流の2024年問題に対処し、競争力を保持する上でも、このような取り組みや長期的な視点は不可欠だと思います。テクノロジーの利用と新しい戦術の探求は、中小企業経営者にとって避けて通れない課題であり、これからの対応が企業の存続と成長に直結する重要なポイントとなります。
 
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貨物を積んだトラックやシャーシごと輸送するRORO船

実例で見る、中小企業の物流DX
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すでに、一部の中小企業は2024年の物流問題に対処するために多くの対策を取り始めています。デジタルツールの活用はその一例で、配送ルートの自動最適化やリアルタイムでの配送トラッキングにより、労働時間の効率化と運行コストの削減を実現しています。デジタルツールには、配送ルート最適化アプリの「ODIN 配送計画」や配送計画最適化サービスの「LocoMoses」など、すでにさまざまなアプリ、サービスが利用できます。

配送ルート最適化アプリ

また、外部の物流パートナーとの連携や共同輸送のも注目されており、運営コストの削減と効率化が図られています。例えば、物流サービス会社の日本パレットレンタルでは、登録企業の物流ルートのデータをもとに、荷主企業同士の共同輸送をAIでマッチングするサービス「TranOpt」を開発しています。このサービスは、経路や想定運賃、荷量の需給、季節変動を考慮した詳細なマッチングを行い、異業種間の共同輸送を促進しています。
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日本パレットレンタルの共同輸送マッチングサービスTranOpt


物流危機は政府の支援と業界全体での連携が必須!
これらの取り組みは、中小企業が競争力を保持し、物流の2024年問題に対処する上で不可欠です。特に、ルートの最適化、配送スケジュールの効率的な管理、そしてテクノロジーの利用は、労働時間の制限に対処し、サービスの品質を保つための重要な要素となります。
物流2024年問題は物流業界全体の問題です。一社だけなんとかしようとするのではなく、業界全体での連携や大手企業との協力を通じて、効率的な物流ネットワークを構築することが必要でしょう。
ただその一方で、旗振り役の政府の対応は場当たり的で、中小企業の現実の困難を軽視していると感じます。政府は、業界全体での連携を強化し、中小企業を具体的に支援する策を講じるべきです。例えば、政府は物流の効率化とイノベーションを支援するための研究開発の助成金や税制優遇を提供することができます。また、物流管理やデジタルツールの使用に関する教育とトレーニングプログラムを提供したり、助成したりすることもできるでしょう。それがあって初めて、中小企業の競争力保持と成長のための道筋が明確になるのではないでしょうか?


20244月、日本の物流業界は大きな転換点を迎えます。新たな労働法規制が施行され、トラック運転手の時間外労働が年間960時間に規制強化されます。つまり、1ヵ月の時間外労働の上限は平均80時間となるわけです。これは現行の残業上限から19時間短縮する計算で、東京〜大阪間の往復輸送時間に相当します。そのため、事業者は運行本数を減らすかドライバーを増やす必要があり、一部では、最大4割の事業者が倒産・廃業するといわれています。

今回は、この「物流2024年問題」について、前編、後編に分けてお話しましょう。

 

トラックドライバーの労働時間制限と物流業界の未来

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新たな労働法規制は、人手不足に悩んでいる物流業界にさらなるプレッシャーを与えます。トラック運転手の労働時間が制限されれば、この業界への新規参入が減ったり、トラック運転手が職を辞めたりする可能性も出てきます。そして、その結果、物流コストの増加、配送の遅延、または配送不能といった問題が発生するかもしれません。

特に、日本の物流業界はトラック事業者の99%を中小企業が占めているので、こうした変化に対処するための必要な資源や専門知識を持っていません。そのうえ、物流業界の多重下請け構造、運賃・料金の不透明性がこの問題をさらに複雑にしています。結果として、競争力の低下が起こり、最悪の場合、事業の継続が困難になる中小企業が出てくるでしょう。

このように「物流2024年問題」は、中小企業の経営者にとって避けられない問題です。政府の対応が遅れている現状では、中小企業の経営者自身が何らかの対策を講じ、業界全体での連携強化が求められます。

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出典:国土交通省                                                         


物流革新緊急パッケージの期待と現実のギャップ

政府は「物流革新緊急パッケージ」を策定し、①物流の効率化、②荷主・消費者の行動変容、③商慣行の見直しを3本柱に据えています。しかし、前述したとおり、日本の物流業界の特徴として、トラック事業者の大多数が中小企業で占められており、政府の対策が想定どおりの効果をもたらすのは難しいといわざるをえません。政府の対策の中には、「物流経営責任者」の選任を義務付ける法制化も含まれていますが、補助金による支援方針はあるものの、初期投資の負担は中小企業にとって非常jに重く、導入が円滑に進むとは思えません。

また、政府は、荷待ち・荷物の積み下ろし時間の削減や荷物の積載率向上などの試算を行い、人手不足を補う計画を立てています。しかし、実際にこれらの対策が十分に効果を発揮するかは不明であり、政府の対応が後手に回っていると感じる中小企業経営者も少なくありません。

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出典:内閣府                       

 

 

人手不足とコスト上昇がもたらす連鎖反応

物流業界は、人手不足とコスト上昇の波にさらされています。特にトラック運転手の不足は深刻で、中途採用の求人数が前年比で61%増となっています。この人手不足は、運賃の上昇に直結し、過去最高水準を更新し続けています。しかも、運賃の上昇は製品価格や宅配料金の値上がりとなり、消費者の負担増にもつながっています。

労働法の改正に伴う時間外労働の制限は、特に長距離輸送を行う企業に影響を与えています。これにより、交代要員の確保や休憩時間の取得が必要となり、労働時間の効率的な管理が求められています。企業は労働力確保のために給与を引き上げていますが、それに伴い運賃も上昇しており、この負のスパイラルは簡単には解消されないでしょう。

物流業界は燃料費の高騰も抱えており、これがさらに業界全体のコストを押し上げています。こうした問題は、利益率の低い物流業界にとって一大事であり、持続可能な解決策を見出すことが急務です。

 

労働力不足が引き起こす運賃の上昇

それでは、物流業界はいかにして労働力の確保行えばいいのでしょうか?

労働基準法の改正によりドライバーの労働時間が制限されるため、労働力不足の解消は容易ではありません。例えば、フジトランスポートは経験者を中心に70人のドライバーを採用し、さらに300人以上の中途採用を計画しています。しかし、厚生労働省の職業安定業務統計によると「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2.48倍であり、ドライバーの採用に苦戦している企業は少なくありません。

運賃の動向も物流業界における重要なファクターです。労働力の確保に伴うコスト上昇は運賃に直接反映され、トラック運賃は過去最高を更新し続けています。主要路線である東京〜大阪間の運賃は現在100キログラムあたり2850円前後で、これは過去最高値です。大手宅配業者であるヤマト運輸と佐川急便は、基本運賃を1割程度引き上げ、さらにヤマト運輸は年度ごとに運賃を見直す考えを明らかにしています。

これらの動向は、物流業界の構造的な課題を浮き彫りにしています。特に影響の大きい中小企業は、労働力の確保とコスト抑制の両立を図るための新しい戦略と解決策を模索する必要があります。

大企業製造業の回復が続き、非製造業も高水準をキープ

102日、日銀が公表した「全国企業短期経済観測調査(短観)」によれば、大企業製造業の景況感は前回の6月調査から4ポイント改善し、プラス9となり、特に自動車産業は10ポイント改善してプラス15を示しています。この改善の背景には、環境規制に対応した新型車の需要増加、および国際的なサプライチェーンの安定化があります。また、新興国での消費増加もこの業界に追い風となっています。食品などは円安・原材料高の影響を価格転嫁で吸収したことによる収益環境の改善が見られました。また、石油・石炭製品は20ポイント改善してプラス14となりました。一方で、半導体関連の需要の低迷が影響し、電気機械は4ポイント悪化しました。

 

DIDiffusion Index)とは 日銀短観で用いられる指標の一つで、企業が自らの業況を「良い」「普通」「悪い」といった形で評価する際の結果を集計し、その差を数値で表したものです。


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(出典:日本銀行)


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非製造業は好調を維持も、明らかに人手不足

非製造業は引き続き好調を維持しており、大企業非製造業の業況判断DIは前回から4ポイント上昇してプラス27となっています。この上昇の背景には、テレワーク需要によるIT関連サービスの増加、国内外の観光業回復によるインバウンド消費の増加が寄与しています。

しかし、近年の人手不足は深刻で、受注を断らざるを得ない企業も出てきています。

先行きの業況判断について、大企業製造業はプラス10と前回より1ポイント上昇しており、非製造業はプラス21と前回より6ポイント悪化しています。製造業では自動車生産の回復が期待される一方、非製造業では原材料コストの上昇や人手不足の問題が懸念されます。

価格に関する動きとして、大企業製造業の販売価格判断DI2ポイント悪化のプラス32、仕入れ価格判断DI4ポイント悪化のプラス48となっています。


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中小企業の業況判断と製造業、非製造業の動向

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中小企業の業況判断は、製造業と非製造業で異なる動きを示しています。製造業の業況判断DIはマイナス5で、前回の調査と変わらない結果となっており、特に原材料コストの上昇や供給網の不安定さが影響を与えています。一方、非製造業の業況判断DIはプラス12で、前回の調査より1ポイント改善しています。新型コロナウイルスの影響緩和やインバウンドの増加が非製造業の中小企業における業況の改善に寄与しており、特に飲食やサービス業では消費者の支出回復や外出自粛の緩和が好影響をもたらしています。しかし、人手不足や円安による原材料コストの上昇といった課題は依然として存在しており、日銀短観ではこれらの要因が今後の中小企業の業況にどのように影響するのか課題となっています。

 


経済の回復傾向、しかし注意点も

今回の調査結果から、経済の回復傾向が続いていることが伺えますが、様々な要因による影響も考慮する必要があります。特に、非製造業の先行きには注意が必要とされています。

企業の消費者物価の見通しも引き続き注目されています。全規模全産業の1年後の見通し平均は前年比2.5%上昇、3年後の見通しは2.2%5年後の見通しは2.1%となっています。これらの数値は、6月の調査結果とほぼ横ばいであり、政府・日銀の2%の物価上昇目標を上回っています。

また、企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは、全規模全産業で1ドル=13575銭となっています。これは、6月調査時の13243銭から円安(トルツメ)に傾いています。現在の円相場は、1ドル=149円台で円安に推移しており、これも企業の業績予想に影響を及ぼす可能性があります。

今回の102日日銀短観のデータは、おおむね経済の回復が続いていることを示していますが、非製造業の先行きは円安による原材料費の高騰、慢性的な人手不足、インフレ傾向など、引き続きすぐに対策しなければならない要因も多く存在しています。これらの要因が、中小企業の動向にどのように影響するか不明確です。中小企業の経営者は金融機関や政策をあてにせず、経済上昇の風に乗って自助努力して出来ることから始めましょう。

インボイス制度、スタート!誰が困る?

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この10月から、ついにインボイス制度がスタートしました。

このインボイス制度は、個人事業主の負担が増えるため、弱い者いじめ、下請けいじめとも言われていますが、ここに来て、発注企業も、個人事業主とのスタンスをどう取るべきか、悩んでいるようです。

現在、年間売り上げ1千万円以下の事業者は消費税の納税義務が免除されており、この事業者のことを「免税事業者」と呼んでいます。これは、消費税導入時に小規模な事業者の事務負担が増えるという配慮から設けられた特例制度ですが、その問題点(公平性の問題、誤報告や不正取引の発生など)が指摘されてきました。

インボイス制度は、こうした問題点を解消する手段ではあるものの、下手をすると、発注企業も弱い者いじめ、下請けいじめに加担することになりかねません。


免税か課税か?ビジネスの岐路!

10月以降、個人事業主は、①インボイスを発行する課税事業者となるか、②免税事業者のままでいるか、どちらかを選択することになります。

しかし、①の場合は、これまで免除されていた消費税の納税義務が生じ、負担が増えます。②の場合は、発注企業は仕入税額控除(仕入れにかかった消費税を差し引ける)を受けることができないため、免税事業者は、取引金額の値下げを求められたり取引自体を打ち切られてしまったりする可能性があります。

いずれにせよ、インボイス制度によって、個人事業主は何らかの負担を強いられるのです。しかも、発注企業が個人事業主に対して一方的に取引金額の値下げを求めると、独占禁止法に違反する可能性(優越的地位の乱用)があり、たまったものではありません。

では、現段階で発注企業は個人事業主に対して、どんな対応を取ればいいのでしょうか?


発注企業ができる4つの対策

ここでは、具体的な4つの対応策を挙げたいと思います。

1. 信頼関係の構築と維持

人事業主の技術やノウハウは、多くの発注企業にとって欠かせない価値があります。インボイス制度の導入による影響を軽減するためには、

発注企業が主導となって、信頼関係の構築・維持を図ることが必要です。


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2. 研修やセミナーの開催

新しい制度に関する研修やセミナーを発注企業が主催することで、個人事業主の課税事業者への移行をサポートすることができます。税制変更に関する情報共有や、具体的な取引の見直しについてのアドバイスなど、発注企業からの積極的なサポートが求められます。

3. 取引条件の柔軟な見直し

取引条件の柔軟な見直しを検討することで、個人事業主の負担を軽減することが可能です。例えば、支払い条件の緩和や、長期契約の締結など、個人事業者の経営安定をサポートする施策を取り入れることが考えられます。

4. 金融機関や行政との連携

発注企業が金融機関や行政と連携を図ることで、個人事業主への資金繰りのサポートや、新たな制度に関する最新情報の提供など、より効果的な支援を実現することができます。


「2割特例」で制度変更をスムーズに!

なお、今回のインボイス制度導入に当たっては、激変緩和の観点から、開始から一定期間は「2割特例」という経過措置が取られています。これは、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、一定割合を控除できるというものです。

経過措置を適用できる期間と割合は、次のとおりです。

・令和5年10月1日から令和8年9月30日までは、仕入税額相当額の80%

・令和8年10月1日から令和11年9月30日までは、仕入税額相当額の50%

20231008 2waritokurei.png国は、こうした経過措置を取りつつ、なんとか個人事業主を課税事業者に移行させ、税の透明性を高め、税収を増やしたいのでしょう。しかし、前述したとおり、インボイス制度と独占禁止法の間で板挟みになっている発注企業は少なくないはずです。このような、発注企業に負担が集中するような仕組みはなんとかしてほしいものです。



メディア大騒ぎ! ストライキの背後に隠された真実

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831日、1962年の阪神百貨店以来、百貨店としては実に61年ぶりに西武池袋本店でストライキが決行されました。この日、多くのテレビ番組やニュースは、そごう・西武労働組合の強い反発を取り上げました。また、地元・豊島区や、西武百貨店ファンが昔を懐かしむ声も多く伝えられました。

マスメディアは、労働組合や地元の意向を反映して、現状維持の必要性やその重要性を強調しているように感じられました。また、今後は労働組合のこうした動きが他業種にも広がっていくだろうとコメントした識者もいたようです。

しかし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のことわざどおり、それ以降、そごう・西武のニュースを報じるマスコミはほとんどありません。実際のところ、このストライキにはどれほどの意味があったのでしょうか?


セブン&アイの驚きの決断!西武売却の実情とは?

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というのも、翌91日には、親会社であるセブン&アイ・ホールディングスが、米国の大手投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を2200億円で売却してしまったからです。一見、2200億円は巨額に見えますが、そごう・西武が抱える約3000億円の有利子負債を考慮すると、その実質的な譲渡価額はわずか約8500万円に過ぎないということも明らかになりました。

さらに、94日には、新経営陣から従業員に向けて、「そごう・西武新体制のスタートにあたって」という文書が配布され、「今後は経営と執行を分離するという新しい経営の形をとる」「事業の継続と雇用の継続が守られ、店舗閉鎖やリストラは行わない」「西武池袋本店については面積縮小を伴う全館改装を想定し、館全体のプランを見直す」といったことなどが伝えられました。

 

ヨドバシカメラ進出!西武池袋の未来と労働組合の闘い

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近い将来、西武池袋本店には、家電量販店の大手、ヨドバシカメラが出店する予定です。この出店が実現すれば、現在のテナント、特に高級ブランドや地元の小売業者に影響が出るのは確実です。そして、この変動に伴い、余剰となる人員は、そごう・西武内での配置転換に加え、総合スーパーのイトーヨーカ堂などセブングループ内での異動が検討されることになるでしょう。

4期連続で赤字を出している会社に対して、労働組合が一貫して主張する「現状維持」のスタンスは、正直、非現実的であると言わざるを得ません。確かに、労働組合は元々、従業員の権利や待遇を守る目的で存在しています。しかし、経営が厳しさを増す中での過度な「現状維持」の主張は会社の存続を危機に晒すことになるし、現場で働く従業員の中にも、そうした声は少なくないでしょうか。


労働組合の"現状維持"主張に隠された危機!

経営改革は避けられない?

もちろん、今回の売却のプロセスでは、従業員や地元、さらに消費者というステークホルダーに対する配慮があまりに欠けていたかもしれません。しかし、未だ大きな経営改革を行わないまま「現状維持」を訴える労働組合の姿勢は、短期的な視点に過ぎると思います。

94日に配布された文書には、「借入金問題が解決し、店舗やシステムへの投資に再配分できるようになった今こそ、新しい経営戦略や効率化の取り組みが不可欠です」とも綴られています。

ECサイトの普及や消費の多様化などで、百貨店という業態が苦戦しているのは明らかです。だとしたら、労働組合も旧態依然とした考え方を改め、真の意味で経営陣と協力をしていかなければ、百貨店の未来を取り戻すことはできないでしょう。


[2023.9.29]



M出版の民事再生手続き廃止、破産へ
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健康情報誌で有名なM出版が民事再生、経営破綻の裏側に労使対立があった」[2023.5.28]の続報です。M出版は、3月2日に東京地裁に民事再生法適用を申請し、7日に再生手続き開始決定を受けて、事業再生計画案をつくり、再建を目指していました。スポンサー候補に複数の会社が名乗りをあげましたが折り合いがつかず、昨日5月29日、同地裁より再生手続き廃止決定および保全管理命令を受けました。今後、破産手続きに移行することになります。

再生への道筋はつけたが、最後まで労使協調に至らず
報道では、主要雑誌3誌とムック・書籍27点の版権を別の出版社に譲渡し、「残る事業についてのスポンサー企業は現れず」とされていますが、実際は、スポンサーを申し出た会社はあったのです。しかし、すでに深刻だった労使の対立は和らぐどころかますます激しくなり、スポンサー候補が示した条件に労働組合が歩み寄ることはありませんでした。そして、5月18日に開かれた社員総会で、全社員に解雇が言い渡されました。

会社の存続が危ぶまれるような局面では、経営陣も従業員も一致団結して事に当たらねば船そのものが沈んでしまいます。M出版は、もとより組合の力が強く、いきなり呉越同舟、手のひらを返して労使協調しろと言われても、なかなか容易なことではなかったでしょう。残念ながら、再生の道のりは一歩踏み出したところで行き詰まってしまいました。最後まで経営陣と社員が同じ方向を見ることはなく、対立の果てに全社員が職を失い、会社も消滅することになったのです。

経営者と社員、あるいは、社員同士が日常的に対話をし、会社の方向性・目的地を共有しておく努力は、単なる理想論のお題目ではなく、いざという時に功を奏するものなのです。

[2023.5.30]

健康情報誌のM出版が経営破綻
2023年3月2日、M出版(東京都中央区)が東京地裁に民事再生を申請し、同日、監督命令を受けました。

同社は1977年設立の出版社。大手出版社から独立しました。健康雑誌のパイオニアであり、商品情報誌も読者の支持を得ていました。雑誌のほかに、健康本やムックなど年間およそ100点の書籍を発行していました。M出版の倒産は出版業界でも大きなニュースになりました。

実は、私はM出版が民事再生法の適用申請をする前から同社の資金調達に関わってきました。申請時の債権者は約90名、負債額は約15億7200万円ですが、M出版は決して債務超過に陥っていたわけではありません。それなのに、なぜ経営破綻に至ったのか。今回は、報道されていない事情と経緯を多少なりともお伝えできるのではないかと思います。

民事再生申請の理由は債務超過ではなく資金ショートだった
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M出版が民事再生を申請した直接的な理由は、単純な資金ショートです。2020年2月末に約4億円あった現預金は、2022年2月末には約2億円、民事再生を申請する直前の2023年2月末には6000万円台しか残高が残っていませんでした。このままでは3月の給料の支払いすらできないということで、民事再生法を申請したのです。

言うまでもなくM出版も経営改善の努力を行なってきました。売上高のピークは2004年2月期の約36億1800万円。以降、インターネットの普及、活字離れ、購読者の高齢化などによる出版不況に飲み込まれ、特に雑誌の売上げが大幅に減少しました。ウェブサービスへの移行や、本社移転、人員削減などを進めて業績回復をはかりましたが、2022年2月期には売上高が約14億5600万円と、ピーク時の4割まで落ち込みました。それほどまでに出版不況は深刻です。

出版業界独特の商慣習にも問題があります。出版社の会計処理は非常に特殊で、「返品」と相殺された額を売上高として計上します。そのため、現時点での財務状況が明示できず、金融機関の理解を得るのが難しいのです。経営者が自社の財務状況を掴みづらく資金繰りの悪化に気づくのが遅れるというデメリットもあります。M出版の場合、系列の子会社との貸借関係が問題視されたこともあって、銀行から融資を受けることができませんでした。

私的整理が成立しなかった背景にあった労使対立
2022年10月頃から、M出版は自力再建、つまり、私的整理を目指してスポンサーを探し始めました。スポンサー企業に株式を譲渡し、資本提携しようと考えたのです。そのときのスポンサー候補は3社。1社は投資会社、2社は出版社でした。

しかし、スポンサー候補が当然のように要求したリストラをM出版の社員らが拒んだため、スポンサー交渉は決裂しました。一般的には新オーナーはリストラが必然ですが、社員は全員の雇用を求めました。労働組合の発言力が強く、人件費の調整もままならないという状況です。経営陣も労組出身で、社内で社員に対して強く言える人もいませんでした。

このように、M出版が私的整理をなし得なかった背景には、労使がうまく協調できなかったということがあったのです。

申立て後、異例のスピードで事業を再開できた理由
結局、私的整理は成立しなかったものの、そのために準備し書類を整えていたことが、民事再生の適用申請後、異例のスピードでの事業再開につながりました。当初からスポンサーが数社手を挙げていたので、プレパッケージ型民事再生ではないものの、通常、事業再開まで少なくとも3ヶ月程度はかかるところを、2週間ほどで事業再開できました。

M出版が3月7日に行なった債権者説明会では、資産内容を公開して事業再生計画案を提示することができ、4月上旬にはスポンサー候補として9社が名乗り出ました。
会社再生のカギは、経営者と従業員が一致団結すること
いくつもの会社がスポンサーに立候補するのは、M出版の社員たちの仕事が、主要な健康情報誌の知名度を上げ、会社の価値を高めてきたおかげです。その一方で、同じ社員たちが経営方針を受け入れることができていたならば、自力再建の段階で経営を立て直すことが可能だったかもしれません。

会社再生の基本は、売上げを増やすこと、経費を減らすこと、事業をセグメント化して整理することです。いずれも従業員が会社全体のことを考えながら動かないとスムーズに進められません。経営者と従業員が一致団結できるかどうか、それが会社再生のカギを握るのです。



[2023.5.28]

岸田文雄首相、応援演説会場で襲撃される
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衝撃的なニュースが飛び込んできました。4月15日、岸田文雄首相が衆院補欠選挙の応援に訪れていた和歌山市の演説会場で、パイプ爆弾に似た物が投げ込まれ爆発する事件が起きたのです。投げ込んだ男はその場で取り押さえられました。幸いSPの機敏な対応などのおかげで岸田首相も無事、周囲にも大きなケガをした人はいなかったようです。

テロリズムの背景にある不景気
安倍元首相暗殺事件から9ヶ月、今度は現職の首相が襲撃されるという事件が起きてしまいました。日本の首相経験者は64人、そのうち14人が襲撃され、7人が命を落としています。事件は昭和初期に集中しています。その発端になったのが、昭和5年(1930)、「ライオン宰相」と呼ばれた濱口雄幸首相が東京駅で銃撃された事件でした。

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当時、日本は、のちに「昭和恐慌」と呼ばれるようになる経済危機に陥っていました。第一次世界大戦後の戦時バブルの崩壊につづいて大正11年(1922)の金融恐慌、そして翌12年(1923)の関東大震災が追い打ちをかけました。

濱口内閣は緊縮財政と金融引き締めを進めたうえで、金本位制への復帰を狙って金解禁を行ないましたが、折悪しく昭和4年(1929)のウォール街の株価大暴落とタイミングが重なり、さらなる混乱を招くことになりました。深刻なデフレ、中小企業の倒産や操業短縮、街にあふれる失業者。大卒の就職率が30%という不景気のどん底で、職を求めて奔走する青年を描いた小津安二郎監督の映画「大学は出たけれど」(1929年)が公開されたのも、まさにこの頃です。濱口首相暗殺には、そうした社会の鬱憤が噴出したという側面があります。

不況による世情不安はテロの連鎖を呼ぶ
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もちろんそれぞれの事件に至る経緯には、政治思想上の対立など様々な要素が絡み合っています。とはいえ、濱口首相暗殺に続いて五・一五事件、二・二六事件と、権力の中枢を狙うテロリズムが連鎖していく背景には、すくなくとも不景気が引き起こした世情不安があるのは確かでしょう。

長引く不況は、社会全体から冷静さや余裕を奪います。そして、不況や経済格差を生んだ張本人として人々の不満や怒りのはけ口になりやすいのが政治家です。過去の事件では、一部の世論が犯人を賛美したり、減刑嘆願運動が起きたりしました。昨年起きた安倍元首相暗殺事件の容疑者に対しても減刑嘆願や高額のカンパが届いているそうです。

今回の岸田首相暗殺未遂がどんな性質の事件なのか、まだ分かりません。しかし現在、コロナ禍、そしてロシアによるウクライナ侵攻などによって世界経済が低迷し、先行きが見えません。昭和初期と同様に、世情不安が続いています。不況が長引けば長引くほど人心は乱れ、こうした事件が起きやすい土壌が出来上がっていきます。同様の事件が連鎖して起きないか非常に心配です。


[2023.4.18]

大企業では明暗くっきり、製造業の景況感は回復せず
4月3日、日銀が発表した「全国企業短期経済観測調査(短観)」は、コロナ禍が始まって3年が経過した日本経済の現状を端的に示す内容となりました。
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業況判断DIは、景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値です。大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、12月の前回調査から6ポイント悪化してプラス1でした。これは、市場予想の中央値より3ポイント悪く、5四半期連続して悪化しました。資源価格やエネルギー価格の上昇が、製造業の景況感を最も押し下げている要因のひとつでしょう。
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一方、大企業非製造業はプラス20と、前回より1ポイント改善しました。これは市場予想の中央値と同じで、4半期連続で改善しています。非製造業の景況感が徐々に回復しているのは、やはり、感染症対策が緩和されて人の流れが戻りつつあることが追い風になっているようです。

業種別にみると、コロナ禍で一時マイナス70まで落ち込んでいた「対個人サービス」がプラス24まで回復しました。しかし、インバウンド需要などで上昇が期待されていた宿泊・飲食サービスは前回と変わらず0でした。

いまだマイナスにとどまる中小企業の製造業
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中小企業の製造業は前回12月調査より4ポイント悪化してマイナス6でした。コロナ禍開始直後に急落したのち、経済活動の正常化にともなっておおむね回復傾向にあります。しかし、2019年、米中貿易摩擦による外需の落ち込みや消費税引上げに伴う駆け込み需要後の反動などでマイナスに転じて以来、プラス域へと抜け出すことができず足踏み状態です。中小企業の非製造業は回復基調が続いています。

懸念材料が山積、楽観視できない先行き判断
先行き判断DIは、大企業製造業でプラス3で、前回調査から2ポイント回復しました。背景には、原材料価格の上昇が一服するのではないかとの期待があります。しかし、欧米での急速な利上げで拡がる金融不安や海外経済の減速など懸念要素もあります。非製造業は大企業・中小企業ともに悪化しました。経済の正常化やインバウンド需要がプラスに働くとしても、それ以上に物価高そして深刻な人手不足が資金繰りに大きく影響しているようです。
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ひとつ注意しておきたいのは、今回の日銀短観の回答期間が2月27日~3月31日だったことです。3月10日、米シリコンバレーバンク破綻を機に広がっている金融不安の影響が十分に反映されていない可能性があります。その分を差し引いてデータを見なければならないでしょう。


[2023.4.7]

減益なのに賃上げ5%に踏み切ったワークマン
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2月23日、作業服大手ワークマンの春夏向け新商品発表会が行われました。そこで土屋哲雄専務が「4月から全社員約360名の賃金を平均5%引き上げる」と発表しました。ベア(基本給の底上げ)は3%です。

2023年3月期の税引き利益の見通しは前期比19%減の148億円。1月末に人事が出した案の上げ幅は過去10年間の平均賃上げ率を踏襲した平均3.8%でしたが、業績が悪化しているさなか、人事部長曰く「これでも多いくらい」でした。

しかし、物価高はおさまらず、消費者物価指数は前年比4%も上昇しています。賃金を3.8%上げたとしても実質賃金はマイナスです。これでは「賃上げになっていない」として、役員は自分たちの賞与をカットするなどして原資を捻出、平均5%の賃上げを決めました。

中小企業も人材確保のために賃上げせざるをえない
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少子高齢化で労働人口が減少し、どの業界も人手不足です。日本商工会議所が約3000社の中小企業を対象にして行なった調査(複数回答)によると、賃上げの理由として、77.7%の企業が「従業員のモチベーション向上」と回答、58.8%が「人材の確保・採用」と答えています。約半数の企業が「物価高への対応」としていますが、実際、いま増やさなければ実質的に賃金カットになってしまいます。

2022年秋の最低賃金引き上げは前年度比3.3%と過去最高でした(関連記事:「最低賃金の大幅引き上げ3.3%、中小企業は助成金などの活用を!」[2022.8.19配信])。前掲の日本商工会議所の調査では、最低賃金引き上げを受けて、6割強の企業が賃上げを行なったそうです。
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そのうち「最低賃金を下回ったため賃金を引き上げた企業」が、人件費の増加にどうやって対応したのか。多くの企業が正攻法で賃上げの原資を増やそうとしています。

「商品・サービスの値上げ」(28.3%)
「販路拡大に取り組む」(22.3%)

ただし、17.8%の企業が「残業時間・シフトの削減(非正規社員を含む)」としていることから、建前では最低賃金をクリアしているとしても実際に従業員の手取りが増えたのか疑わしいケースがあることもわかります。なかには「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」と答えた企業も15.8%もありました。

ワークマンが大幅な賃上げを決断するに至ったのは「優秀な社員を流出させるわけにはいかない」と役員たちが腹をくくった結果でした。土屋専務は「(大部分の商品の)価格を据え置いたとしても社員にしわ寄せはしない。私含め経営者のボーナスだけカットする」と語りましたが、この発言は、人件費を増やさずに、あるいは、増やすことができないまま、就労時間を減らすなどして最低賃金のラインを守っている企業があるという皮肉な現状を踏まえたものかもしれません。しかし、前回の記事「2023春闘、大企業の8割が「満額回答」、歴史的な賃上げ率の背景に人手不足」[2023.3.29配信]でも言及したように、物価が高騰しているにもかかわらず価格転嫁はなかなか進まず、景気も十分に回復していないという状況で、中小企業が賃上げをするのは現実的に容易なことではないでしょう。

「賃上げすれば、社員は必ずついてくる」
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今回、大幅な賃上げを決断したワークマンには、過去の成功体験がありました。2014年、業績が伸び悩んでいたとき、「ベアで5年で年収を100万円増やす」と社員たちに発破をかけたそうです。

その後の快進撃はご存じのとおり。売れ筋のPB(プライベートブランド=自社で企画・開発したオリジナル商品)を増やし、充実させ、これまでの作業服のイメージを一新させた衣料品店「ワークマンプラス」が主力業態になるなど、「ワークマン」のブランド価値の上昇には目覚ましいものがあります。

土屋専務は「賃上げすれば、社員は必ずついてくる」と言います。賃上げには、従業員のモチベーションを上げる効果が確かにあります。経営者は、人材流出の防止や人材確保のためというネガティブな理由よりも、むしろ、従業員のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を高め、活力をもって仕事をしてもらうためだと考えて賃上げを行なうほうが、経営全体にもよい影響がありそうです。

[2023.3.29]
大企業は軒並み「満額回答」、30年ぶりの高水準
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3月15日、2023年の春闘は集中回答日を迎え、製造業を中心に大手企業が大幅な賃上げ方針を明らかにしました。自動車、電機、重工、飲料など、全体の8割が満額回答。連合による集計結果(24日の2次集計結果)によると、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と勤続年数が上がるごとに増える定期昇給を合わせた賃上げ率は平均3.76%、30年ぶりの高い水準となりました。

日立製作所は25年間で最高の月7000円のベア。また、三菱重工は49年ぶりの満額回答で月1万4000円のベアでした。過去20年間で最高水準の賃上げに踏み切ったトヨタが早期に満額回答を示したことが、賃上げムードを後押ししたとみられています。

賃上げの背景に人手不足
「歴史的賃上げ」と評される大手企業の動向には、少子高齢化による慢性的な人手不足が影響しています。優秀な人材、特に「デジタル人材(最先端のデジタル技術を活用する能力を持った人材)」の奪い合いが加熱するなか、「他社よりも回答が低かったら社員が離れる」という強い危機感がうかがえます。23年3月期の連結営業損益が200億円の赤字見通しと発表したばかりのシャープですら、人材確保のためにはやむを得ないとして、ベア月額7000円アップの満額回答でした。

学生の就職活動も売り手市場が続いていますから、企業も初任給や給与を引き上げてアピールしなければなりません。日本の労働市場も、他の先進国のレベルにはまだ遠いとはいえ、徐々に流動性が増しています。

中小企業も賃上げ傾向だが、依然として経営は苦しい
3月28日、日本商工会議所が発表した全国3000社の中小企業を対象にした調査結果によると、今年度賃上げを予定している企業は約6割(58.2%)に上りました。そのうち物価上昇率を概ねカバーできる賃上げ率「4%以上」と答えた企業は18.7%、ベアの水準アップを検討すると答えた企業は40.8%でした。
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数字の上では中小企業も賃上げ機運に乗っているように見えますが、内情はいまだ非常に苦しいというのが現状です。賃上げを予定していると回答した中小企業のうち、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」とした企業の割合は約6割に上ります。

「賃上げを見送る」とした企業は、その理由(複数回答)として、
・自社の業績低迷、手元資金の不足(68.4%)
・人件費増や原材料価格上昇等の負担増(50.0%)
・景気の先行き見通しが不透明(39.5%)
・賃上げより雇用維持を優先(38.2%)
などを挙げていて、いずれも芳しくない経営環境を物語っています。

中小企業・非正規雇用の賃金は日本経済を左右する
日本全体の従業者のおよそ7割、3,000万人以上の人が働いている中小企業の賃金が、健全なかたちで伸びていかないかぎり、日本全体の経済が良い方向に回るはずがありません。雇用者全体の4割近くを占める非正規労働者の賃金にしても然り。しかし、中小企業の経営者の多くは賃上げに関していまだ慎重な姿勢をとっています。なぜなら、そもそも賃上げするための原資が足りないからです。
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中小企業庁の調査では、2割近く(14.9%)の中小企業が、直近6ヶ月間のコスト上昇分のうち価格転嫁できていません。それには価格転嫁どころかマイナスになったという企業も含まれています(3.9%)。

大手・中小にかかわらず、賃上げの原資を増やすのは収益力向上です。それためには競争力の強化が欠かせませんが、そこで必要なのが人材です。それなのに人件費にまわす資金が足りず、十分な賃金が払えないために人材を確保できないという悪循環に陥っている中小企業は少なくありません。建設、運輸、介護、宿泊・飲食など、幅広い業種の中小企業が人手不足に悩んでいます。

労働力確保のため積極的に賃上げを進める大企業と、「賃上げをしたいが原資がない、価格転嫁も難しい」と訴える中小企業。単純な構図に当てはめて状況を眺めるのは避けたいところですが、やはり、大企業の利益は中小企業のガマンの上に成り立っているように見えます。

中小の下請けは切って捨ててもかまわないという大企業のやり方に弱点があることは、ロックダウンによりサプライチェーンが断たれてピンチに陥ったときに露呈しました。コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに、生産拠点を国内に戻したり、原材料等を国産に切り替えたりする「国内回帰」の動きも出ています。経営基盤の強化とは、すなわち中小企業とともに地域経済をしっかりと担っていくことにほかならないのだと大企業がはっきりと認識し直すべき時が来ていると思います。


[2023.3.29]
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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
著書の紹介はこちらから。

2024年3月

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