急増する年金機構による差し押さえ
資産差し押さえが急増
社会保険料の滞納を巡って、資産の差し押さえを受ける企業が全国で急増しています。日本年金機構によると、厚生年金保険料などの強制徴収は2023年度、上半期(4~9月)だけで2万6千社を超え、未集計の下半期を含めれば前年度(2万7784社)を大幅に上回る見通しです。
同機構によると、差し押さえによる強制徴収を受けた事業所は、2010年度に1万3707社だったが、その後は年々増加。2019年度には3万3142社に達しました。ただ、コロナ禍に伴う社会保険料の納付猶予措置の影響もあり、2020年度は3357社、2021年度は6781社と縮小。コロナ禍が落ち着き徴収が本格化した2022年度には一気に2万7千社を超え、2023年度はさらなる増加が見込まれます。
(年金機構より当社加工)
社保倒産急増
差し押さえ事業所数の増加に伴い、社保倒産が急増しています。帝国データバンク(4月25日)によると、公租公課倒産は2023年度は138件が発生し、2022年度比で1.4倍となりました。月次ベースでは、2024年1月の14件以降、2月が16件、3月は20件と、過去最多を更新し続けている状況です。3ヵ月で50件なので、このままいけば年間200件にも及ぶ可能性もあるほどの勢いです。
(帝国データバンク)
(帝国データバンクより当社作成)
差し押さえの現状
最近は各地で年金事務所による社会保険料の徴収が強化され、「差し押さえありき」で納付誓約書を提出させるなど、滞納者一人ひとりの実情を無視した強権的な徴収が多発しています。
・ 今までの分納計画から突然一括返済を迫られた。
・ その場で納付金額の増額を求められ、できないのであれば帰ってもらってよいと言われ、実情を無視した誓約書を書かされた。
・ いきなり主要な取引先へ売掛金の差し押さえ通知が届いた。
などといったケースが見受けられます。
社会保険料の徴収は関連法で「国税滞納処分の例による」とされ、国税通則法・国税徴収法が適用されますが、こうした年金事務所による強権的徴収が頻発する背景には、収納率向上のみを追求し、徴収にあたって踏まえるべき法令や納税者の権利を軽視する年金機構(本部)の姿勢があると言えます。
社保倒産の増加要因
こうした社保倒産が増加している背景には、大きく分けて年金機構側の要因と事業者側の要因があると言えるでしょう。
年金機構側の要因とは、ずばり「事業計画」(≒ノルマ)があるからです。
2023年度の同機構の事業計画では、徴収の強化について下記のように記載されています。
「新型コロナウイルス感染症の拡大前(令和元年度)の徴収実績への回復を見据え、令和5年度においても、法定猶予制度の適用も含め、納付に重点を置いた徴収対策を着実に実施し、公正かつ公平な保険料収納の確保を図る。」(抜粋 太字は当社加筆)
令和元年度(2019年度)の差し押さえ実績とは、先にも述べましたが3万3142社です。この3万社超の実績への回復を目指しているわけですから、自ずと「強行」な姿勢になるのもうなずけます。まさに「ノルマ」達成に向け邁進し、現場の年金事務所を指導している姿が想像されます。
一方の事業者側の要因ですが、保険料の値上がりと様々なコスト増により納付原資が圧迫されているという点があげられます。社会保険料は、納付する会社から見ると2005年では支払う給料に対して約23%だったものが、2024年現在では約30%にのぼっています。
具体的にみると、例えば給料が30万円だった場合、社会保険料は23%で6万9千円です。これが30%になると9万になり、負担増加分は2万1千円です。仮に従業員が30人いた場合の負担増は月額で63万円、年間756万円にもおよびます。
756万円のキャッシュを生み出そうとすると、仮に営業利益率10%なら7560万円、5%なら1億5120万円の売上増が必要になります。
まだまだ増える社保倒産
社会保険料の負担増については、これからますます多くの事業者が苦しむことになります。なぜなら2024年10月から、社会保険の適用事業所の範囲が拡大されるからです。従来は社会保険の適用は、従業員数101人以上の事業所だったものが、51人以上に適用範囲が拡大されます。
この影響で65万人が新たに社会保険へ強制加入されることになります。
政治的な動きにも注目
こうした社保倒産の急増を受け、政治にも動きが出てきています。
去る3月12日の財政金融委員会でこの社保倒産の問題が取り上げられ、野党の質問を受けた国税庁や厚生労働省が下記のような趣旨の答弁をしています。
・ 納付が困難の場合、換価の猶予がある。
・ 換価の猶予には申請型と職権型があり、またそれぞれにやむを得ない場合1年の延長がある。(※職権型とは、税務署長の職権にて行われるもの)
・ 社会保険料の徴収も、国税(国税徴収法)に準じて行われる。
このことからわかるように、社会保険料の納付が困難な場合、最長4年間の猶予が認められる制度があるのです。
また4月4日の厚生労働委員会では、武見大臣は「中小企業の経営を著しく圧迫して、倒産させるようなことは、我々としては避けなければいけない。現状のルールに基づいて猶予したり、対応を緩和することが必要で、その趣旨を現場に徹底することで、中小企業の経営基盤を守っていく」と答えています。
年金事務所 4月から態度軟化?
上記のような国会での答弁を受けた結果かどうかは分かりませんが、厚生労働省は4月16日付けで、日本年金機構に向けた指導文書「厚生年金保険料の滞納・猶予適用事業所への対応について」を発出しています。内容は下記のようなものです。
令和6年4月16日作成
<厚生労働省年金局から日本年金機構への指導内容>
厚生年金保険料の滞納・猶予適用事業所への対応について
○ 滞納・猶予適用事業所に係る対応については、国税関係法令に基づく取扱いを徹底し、以下について年金事務所に対し周知・徹底するとともに、徴収職員への各種研修を通じて浸透を図る。
l 事業継続が困難な場合における国税関係法令に基づく申請の猶予と職権
の猶予について、いずれも、1年以内を原則としつつ、状況に応じてさら に1年延長することも可能であり、各猶予が全て適用されれば4年の猶予 が可能であること
l 各月に納付させる金額は、均等型だけでなく、滞納者の財産の状況から
見て、合理的かつ妥当なものとする変動型の納付計画を認めること
l 猶予取消の要件に該当する場合(※)であっても、予定されていた入金がされなかった等のやむを得ない理由があると認められる事情の有無を確認すること
(※)納付計画の不履行や新たな滞納が発生した場合等
ただし、納付協議に応じない場合や財務資料を提出しないなど、納付に対する誠実な意思が認められない場合は、滞納処分(差押等)に移行すること。
あきらめる前に
社会保険行政は厚生労働省–日本年金機構–年金事務所という階層の究極の上意下達機関です。トップ(厚生労働省)の意向が現場(年金事務)に浸透するのに時間がかかりますが、社会保険料の徴収に関する動きに変化が生じてきている可能性もあります。社会保険料の納付に苦しんでいる経営者の方は、「納付に対する誠実な意思」を持って改めて納付について相談してみてはいかがでしょうか。
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