カスハラ問題、厚生労働省も動き出す

カスハラとは

最近ニュースなどでよく耳にするようになった「カスハラ」。

カスハラとは、カスタマー(顧客)ハラスメント(嫌がらせ)の略語であり、暴行・脅迫・暴言・不当な要求といった、顧客による理不尽で著しい迷惑行為のことを言います。

もう少し硬く定義すると、「顧客や取引先などからのクレーム・言動のうち社会通念上不相当なものであり、その手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されます。従業員の些細なミスにより土下座を強要する、などはカスハラの典型例といえます。

厚生労働省も対応を推進

著しい迷惑行為により、従業員の精神的苦痛や退職リスク、業務効率低下などの悪影響が生じる恐れがあるため、厚生労働省では有識者検討会を通じて、企業に従業員保護を義務付ける法整備を進める方針を示しています。

また、東京都では『カスハラ防止条例』を今秋、都議会に提出予定で、制定されれば全国初となる見通しです。

『小売』で3社に1社がカスハラを経験

先日、帝国データバンクによりカスタマーハラスメントに関する企業の意識調査が発表されました。(2024年7月23日)

直近1年以内に自社もしくは自社の従業員がカスハラや不当な要求などを受けたことがあるか尋ねたところ、「ある」とした企業は15.7%となった。規模別でみると「大企業」が21.0%、「中小企業」が14.8%、「小規模企業」が14.4%であった。

また、直近1年以内にカスハラなどを受けたことが「ある」企業を業界別でみると、『小売』(34.1%)がトップとなり、『金融』(30.1%)、『不動産』(23.8%)、『サービス』(20.2%)と主に個人を取り引きの対象とする業界が比較的高い割合で並んだ。また、主に企業間での取り引きが多い『製造』(7.8%)や『運輸・倉庫』(12.9%)、『卸売』(13.1%)などは全体平均を下回った。

他方、カスハラなどを受けたことが「ない」企業は65.4%となり、「ある」よりも4倍以上高かった。規模別では、「大企業」が49.7%、「中小企業」が68.3%、「小規模企業」が71.6%で、規模が大きい企業ほどカスハラを受けている結果となった。

帝国データバンク「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」

判例でみるカスタマーハラスメントに関する企業の責任

カスハラが日常的に発生するようになった今日、企業及び事業主として適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性があります。しかしその一方で、企業としてしっかりとした対策を講じていればその責任を免れるというケースもあります。ここではその両ケースについての裁判事例をご紹介します。

学校を設置する“市”に損害賠償責任があるとされた事例

以下の事例は、保護者による教諭に対する理不尽な言動があった際に、当該教諭の管理監督者である校長に損害賠償責任が追及された事例です。

裁判例①カスタマーハラスメントに対して不適切な対応をとったことで賠償實任が認められた事例 
(一般企業事例に類似するもの)
市立小学校の教諭が’児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が’教諭の言動を一方的に非難し、また、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなぐその勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に当該教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことについて、不法行為と判断し、小学校を設置するA市及び教員の給与を支払うB県は損害賠償責任を負うと判断されました。 <甲府地判平成30年11月13日より要約>

以下の事例は、上記事例とは逆に、賠償責任が認められなかった事例です。

裁判例②顧客トラブルへの対応を十分行っていたことで賠償責任が認められなかつた事例
買い物客とトラブるになった小売店の従業員が、会社に対し、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を欠いたとして、損害賠償請求を求めました。 それに対し、被告会社は、誤解に基づく申出や苦情を述べる顧客への対応について、入社時にテキストを配布して苦情を申し出る顧客への初期対応を指導し、サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにして、深夜においても店舗を2名体制にしていたことで、店員が’接客においてトラブルが’生じた場合の相談体制が十分整えられていたとし、被告会社の安全配慮義務違反は否定されました。 <東京地判平成30年11月2日より要約>

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」より抜粋

このように判例を通しても、企業、組織にとってカスタマーハラスメントに対して十分な対応をとることの重要性が理解されます。

動き出した企業

カスハラの発生が日常化し、企業活動への影響が看過できない程になってきています。企業側も従業員の安全確保や正常な企業活動・業務遂行といった観点から対策を講じる動きが出てきています。泣き寝入りから防御へといった転換ともいえるでしょう。 そこでこうした企業の対策について、具体的な事例をご紹介します。

<事例1>

企業名日本航空株式会社
業種定期航空運送事業及び不定期航空運送事 業/航空機使用事業/その他附帯する又 は関連する一切の事業
従業員数36,039人(グループ従業員数) ※2023年3月現在
取組のきっかけ    一部のお客さまから合理的な範囲を超えた言動や要求が繰り返されることで、従業員が疲弊してしまい、生産性の低下につながるケースもあった。これは自社だけでなく、航空業界全体で問題となっていた。
取組み内容自社でのカスタマーハラスメントの判断基準を作成。既存のお客さま対応マニュアルやガイドラインの内容に追記する形で、社内規程を策定。
従業員に対しては、カスタマーハラスメントに関する会社方針を周知し、具体的な対応ノウハウを伝えるべく、研修を実施。
結果会社が従業員を守る姿勢を明確にすることで、職場における安心感、働きやすさにつながっている。

<事例2>

企業名  タリーズコーヒージャパン株式会社
業種飲食・サービス業
従業員数959人(2023年5月1日現在)
取組のきっかけ    SNSでのつきまとい行為
「当社の店舗スタッフがネームプレートの名前をもとにSNSで検索され、つきまとわれる」というトラブルが発生したことがきっかけに。
取組み内容 ネームプレートをイニシャル表記に変更する案が候補となり、取締役の承認を得て正式に採用。
従業員の個人情報を漏洩させないよう、レシートに掲載されるレジ担当者の欄を社員番号で表記。
結果従業員へのつきまとい被害はほぼゼロになり、スタッフから安心して働ける職場になったという声をもらっています。またアルバイトで働くスタッフのご家族からも「子どもを安心して働かせられる環境ができている」というお褒めの言葉をいただいております。

厚生労働省「NOハラスメント あかるい職場応援団」より。

両事例に共通するのは、企業がカスハラに対するしっかりと方針・対応策を打ち出すことにより、従業員が安心して働ける環境が出来たという点だと言えます。そうした環境整備がひいては生産性、質の向上、従業員の定着につながると言えるでしょう。

令和時代の経営者

厚生労働省では、今回取り上げたカスハラ以外にも、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休暇等によるハラスメントといったいわゆる3大ハラスメント問題への対策に関する総合情報サイトを設けています。

「Noハラスメント あかるい職場応援団」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)

動画や事例紹介など数多く紹介されており、厚生労働省の力の入れ方が感じられます。

カスハラをはじめとした各ハラスメントに対する職場の環境整備という仕事も、令和時代の経営者の務めの一つと言えるかもしれません。

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