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「倒産」を選択する前に......「私的整理」で事業継続の道筋をひらく

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コロナは、倒産の「原因」ではなく「きっかけ」に過ぎない
前回の記事「増加する『コロナ破たん』、過剰債務に苦しむ中小企業に出口はあるのか?」で、コロナ禍が始まって3年目の夏を迎えようとする現在、「新型コロナウイルス関連倒産」が増加し、そのうち「再建型」の倒産(会社更生法と民事再生法)は1割にも満たないということをお話ししました。

ただし、「新型コロナウイルス関連倒産」とひとくちに言っても、その大半は「コロナのせいで」というよりも、「コロナがきっかけで」倒産したというのが実情のようです。

帝国データバンクや東京商工リサーチ他で確認できる個別の倒産情報を見るだけでも、コロナ禍が始まる以前から売上げの落ち込み、債務超過(*1)、取引先への支払いの遅れ、銀行への返済遅延やリスケジュール要請などの文言が並んでいます。もともと経営状態が芳しくなかったケースが多いことがわかります。もとより危うかった事業継続を断念する決定打となったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だったのです。

(*1)「債務超過」とは、負債の総額が会社の資産総額を超えている財務状況を指します。いったん債務超過に陥ると、そこから抜け出すのはかなり難しく、融資も受けにくくなります。

いよいよ運用スタート「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」
今回、「コロナ破たん」と呼ばれる倒産企業の多くは、遡って見ればコロナ禍よりも前に破たんリスクを抱えていました。もっと早く対応していれば、このうち何社かは倒産を回避して事業を立て直すことができていたかもしれません。

4月15日から適用がスタートした「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)では、「平時」「有事」「事業再生計画成立後のフォローアップ」の3段階に分け、段階ごとに中小企業と金融機関の果たすべき役割を明確化しています。

前述したように、倒産を回避するための対応は早ければ早いほどいい。自主再生が可能な「平時」の段階から支援を始めることで、倒産企業を一件でも減らしたいという意気込みが伝わってきます。

倒産のきっかけとなり得るのはコロナだけに限りません。戦争、自然災害、金融危機、世界的不況など、経営者の前には様々な危機が出現します。ガイドラインは、「平時」において中小企業が金融機関との関係を密に保ち信頼関係を築いておくことの重要性を強調しています。そうすることで、「有事」に至る前に無理のないスケジュールで事業再構築などに向けた行動を起こすこともできますし、いざ「有事」に陥った際にも、よりスムーズかつ迅速に事業再生に取り組めると期待できるからです。

「私的整理」は、より現状に即した内容に拡充
ガイドラインでは三部構成の一部を割いて、「中小企業版私的整理手続」(中小企業の事業再生等のための私的整理手続)を定めています。「有事」に至った中小企業が法的整理を選択する前に、私的整理という柔軟な手法をとることで事業再生等に取り組むための手続きです。

◆「再生型」私的整理手続(概略)
(1)主要債権者の同意を得て、第三者支援専門家を専任
(2)第三者支援専門家が、事業再生計画の策定支援等を開始
(3)(必要に応じて)対象債権者に一時停止を要請
(4)事業再生計画案を作成
(5)第三者支援専門家は事業再生計画案を調査し、調査報告書を作成
(6)債権者会議を開催(第三者支援専門家が調査結果を報告)
(7)すべての対象債権者の同意により事業再生計画が成立

2001年の「私的整理ガイドライン」からの主な変更点は次の通りです。
20220709_01.jpg
2001年策定の「私的整理ガイドライン」と比較すると、より中小企業の実情に沿った内容になっています。

ガイドラインが定める私的整理の手続きのキモは、第三者支援専門家の存在です。事業再生計画案ひとつとっても、必要十分な内容のものを作成するのは規模の小さい会社にとって荷が重い作業です。事業再生はスピードが命。リスケジュールで破たんを先延ばしにしているうちに時間はどんどん経過します。専門家の知見を頼り、活用して、一刻も早く再生計画に手をつけましょう。ガイドラインがリスト化している民間の専門家、外部専門家への支払報酬については補助金も受けられます。4月に発足した「中小企業活性化協議会」の窓口に相談するのもよいでしょう。

ガイドラインの運用開始後、税金や社会保険料などの公租公課をしっかり支払っているかどうかが問題となり、私的整理を進めるのが難しくなるケースが出てきているようです。とにかく早期に、社会保険料や消費税の納付などがきちんとできているうちに行動を起こすことが事業再生への第一歩です。

次回は、もうひとつの私的整理である「廃業型」私的整理と、「経営者保証」についてお話ししたいと思います。


[2022.7.9]

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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
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