ウクライナ軍事侵攻の教訓、エネルギー安全保障と情報リテラシー
「脱炭素」が加速させたエネルギー安全保障のリスク
ロシアのウクライナ軍事侵攻の背景には、国際政治上の経緯にくわえて、天然ガスの巨大市場ヨーロッパをめぐる攻防があります。
EUは、1997年のCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で「京都議定書」採択されて以来、「脱炭素」を急速に進めてきました。その過程で、石炭の消費を減らすと同時に、燃焼時に発生する炭酸ガスなどが少ない「天然ガス」火力の稼働率を上げざるを得ませんでした。石油、石炭の輸入量が減る一方で、天然ガスの輸入量は増えていきました。
EU27ヶ国で輸入しているエネルギー資源のうちロシアからのシェアはきわめて大きく、2019年には天然ガス輸入量の4割を超えています。ロシアからヨーロッパへ天然ガスを運ぶ国際パイプラインの整備が始まったのは1970年代です。「脱炭素」はヨーロッパの天然ガスの需要を増やし、エネルギー供給源であるロシアに依存させることになったのです。
ドイツのベアボック外相は、3月6日、ウクライナ侵攻に対する経済制裁でロシアからの石油や天然ガスの輸入を止めると約3週間後にはドイツ国内で電気が使えなくなるだろうと述べました。背に腹は変えられないので経済制裁を実施することができなくなる、ということです。エネルギー供給減を一国からの輸入に頼るのは、安全保障の面でも非常に危険なのです。
資源価格がオイルショック以来の上昇を見せている
現在、ウクライナ情勢に反応して世界的にエネルギー価格が急上昇しています。穀物価格も上がっています。資源価格が上がれば生活物価も青天井ということになりかねません。これは1970年代の第1次オイルショックによく似た状況です。景気が回復しないまま物価が高騰することになるとスタグフレーションが起きてしまいます。
エネルギーや食糧といった社会生活に必要な資源も、安価だからなどの理由でひとつの供給先に依存してしまうと、相手と一時的な緊張関係に陥っただけでもたちまち経済が回らなくなってしまいます。2010年のレアアース危機も記憶に新しいと思います。経済の根幹である資源は複数の供給先に分散しておくことは、国家や企業にとって必要なリスク回避の方法だといえます。
軍事侵攻したロシアは本当に「悪者」なのか?
こうした非常時にビジネス上の判断を下す際は、できるだけ正確な情報を入手する必要があります。
しかし今回のような戦時には特に、あらゆる雑多な情報が飛び交って真偽を確かめるのも容易ではありません。
ウクライナ情勢に関して私たちが日頃から接している報道では、軍事侵攻をしたロシアが「悪者」とされ、世界各地で反戦デモが起きています。
とはいえ立場によってそれぞれ異なる見方があります。例えば、親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領が失脚した2014年のウクライナ騒乱では、ウクライナ民族主義勢力は西側から見ると民主化革命の一翼を担った英雄ですが、ロシア側から見れば大統領派を暴力で追放した武装組織ということになります。
今回も戦時ですから当然、ロシア、ウクライナ双方が自国に有利になるように情報統制を敷いていますし、アメリカや中国といった主要国の政権も発信する情報をコントロールしているでしょう。私たちが接する範囲でも、どこまで正しいのか疑わざるを得ない情報は少なくありません。次のような小さなことでも何かしらの違和感を覚えたときは、簡単に真偽を決めつけないことが大切です。
- ロシアでの戦争反対デモ写真に写っている警官の制服が古いように見える
- ポーランド国境でインタビューを受ける義勇軍参加者が英語で話している
- 燃料切れの戦車のロシア兵が捕虜になっているが、どう見ても子どもだ
●関連記事:「ロシアがウクライナに軍事侵攻!新たな「冷戦」の始まりか」[2022.3.1配信]
●関連記事:「なぜロシアはウクライナに侵攻したのか、その背景は?」[2022.3.6配信]
[2022.3.8]
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