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2023春闘、大企業の8割が「満額回答」、歴史的な賃上げ率の背景に人手不足

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大企業は軒並み「満額回答」、30年ぶりの高水準
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3月15日、2023年の春闘は集中回答日を迎え、製造業を中心に大手企業が大幅な賃上げ方針を明らかにしました。自動車、電機、重工、飲料など、全体の8割が満額回答。連合による集計結果(24日の2次集計結果)によると、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と勤続年数が上がるごとに増える定期昇給を合わせた賃上げ率は平均3.76%、30年ぶりの高い水準となりました。

日立製作所は25年間で最高の月7000円のベア。また、三菱重工は49年ぶりの満額回答で月1万4000円のベアでした。過去20年間で最高水準の賃上げに踏み切ったトヨタが早期に満額回答を示したことが、賃上げムードを後押ししたとみられています。

賃上げの背景に人手不足
「歴史的賃上げ」と評される大手企業の動向には、少子高齢化による慢性的な人手不足が影響しています。優秀な人材、特に「デジタル人材(最先端のデジタル技術を活用する能力を持った人材)」の奪い合いが加熱するなか、「他社よりも回答が低かったら社員が離れる」という強い危機感がうかがえます。23年3月期の連結営業損益が200億円の赤字見通しと発表したばかりのシャープですら、人材確保のためにはやむを得ないとして、ベア月額7000円アップの満額回答でした。

学生の就職活動も売り手市場が続いていますから、企業も初任給や給与を引き上げてアピールしなければなりません。日本の労働市場も、他の先進国のレベルにはまだ遠いとはいえ、徐々に流動性が増しています。

中小企業も賃上げ傾向だが、依然として経営は苦しい
3月28日、日本商工会議所が発表した全国3000社の中小企業を対象にした調査結果によると、今年度賃上げを予定している企業は約6割(58.2%)に上りました。そのうち物価上昇率を概ねカバーできる賃上げ率「4%以上」と答えた企業は18.7%、ベアの水準アップを検討すると答えた企業は40.8%でした。
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数字の上では中小企業も賃上げ機運に乗っているように見えますが、内情はいまだ非常に苦しいというのが現状です。賃上げを予定していると回答した中小企業のうち、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」とした企業の割合は約6割に上ります。

「賃上げを見送る」とした企業は、その理由(複数回答)として、
・自社の業績低迷、手元資金の不足(68.4%)
・人件費増や原材料価格上昇等の負担増(50.0%)
・景気の先行き見通しが不透明(39.5%)
・賃上げより雇用維持を優先(38.2%)
などを挙げていて、いずれも芳しくない経営環境を物語っています。

中小企業・非正規雇用の賃金は日本経済を左右する
日本全体の従業者のおよそ7割、3,000万人以上の人が働いている中小企業の賃金が、健全なかたちで伸びていかないかぎり、日本全体の経済が良い方向に回るはずがありません。雇用者全体の4割近くを占める非正規労働者の賃金にしても然り。しかし、中小企業の経営者の多くは賃上げに関していまだ慎重な姿勢をとっています。なぜなら、そもそも賃上げするための原資が足りないからです。
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中小企業庁の調査では、2割近く(14.9%)の中小企業が、直近6ヶ月間のコスト上昇分のうち価格転嫁できていません。それには価格転嫁どころかマイナスになったという企業も含まれています(3.9%)。

大手・中小にかかわらず、賃上げの原資を増やすのは収益力向上です。それためには競争力の強化が欠かせませんが、そこで必要なのが人材です。それなのに人件費にまわす資金が足りず、十分な賃金が払えないために人材を確保できないという悪循環に陥っている中小企業は少なくありません。建設、運輸、介護、宿泊・飲食など、幅広い業種の中小企業が人手不足に悩んでいます。

労働力確保のため積極的に賃上げを進める大企業と、「賃上げをしたいが原資がない、価格転嫁も難しい」と訴える中小企業。単純な構図に当てはめて状況を眺めるのは避けたいところですが、やはり、大企業の利益は中小企業のガマンの上に成り立っているように見えます。

中小の下請けは切って捨ててもかまわないという大企業のやり方に弱点があることは、ロックダウンによりサプライチェーンが断たれてピンチに陥ったときに露呈しました。コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに、生産拠点を国内に戻したり、原材料等を国産に切り替えたりする「国内回帰」の動きも出ています。経営基盤の強化とは、すなわち中小企業とともに地域経済をしっかりと担っていくことにほかならないのだと大企業がはっきりと認識し直すべき時が来ていると思います。


[2023.3.29]

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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
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