大企業の好業績で高水準の賃上げ! 一方、中小企業はインフレにあえぐ
賃上げ率2.28%、4年ぶりの高水準
5月23日の『日経新聞』朝刊一面に「賃上げ 4年ぶり高水準 2.28% 好業績追い風」という見出しの記事が載りました。日本経済新聞社の賃金動向調査(2022年)で、定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた平均賃上げ率が2.28%になったとのことです。これは前年比0.48ポイント増で、4年ぶりの高い水準となり、7割の企業がベアを実施しました。
2021年11月、岸田文雄首相が「来年(22年)の春闘において、業績がコロナ前の水準を回復した企業に3%を超える賃上げを期待する」と述べたのは、「第3回『新しい資本主義』実現会議」の席上でした。「所得の向上による『賃上げ』」と「『人への投資』の抜本強化」は、「新しい資本主義」を掲げる岸田政権の重点施策です。
そして2022年春闘では、連合が「『人への投資』を起点として経済の好循環を力強く回す」という絵を描き、「高収益、業績が回復した企業に積極的な賃上げ」を要求しました。
こういった「人への投資」を優先する傾向は、「人的資本」の重要性が急速に高まっている世界的な潮流にも沿うものです。しかし、直截に言えば、今回大幅な賃上げを可能にしたのは、コロナ禍から回復した大企業の業績です。22年度3月期の決算発表で上場企業の3割が最高益を出したことを考えれば、賃金も上がって然るべしです。
賃金は上がったものの、それを凌ぐ勢いで上がる物価
日本・東京商工会議所が2月に実施した「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」によると、2021年10月の最低賃金引き上げの際、最低賃金を下回ったため賃金を上げた中小企業の割合は40.3%でした。
増大する人件費を確保するのは平時でも容易ではありませんが、それにもかかわらず中小企業も賃上げに取り組んでいるのです。
しかし、コロナ禍とウクライナ情勢という中長期にわたる不安定な要素が、経済の先行きを不透明なものにし、原材料価格は上昇し続けています。厚生労働省が5月24日に発表した2021年度の毎月勤労統計で、物価変動の影響を除いた実質賃金指数は100.6と、コロナ禍前の19年度(101.2)を下回りました(20年度=100)。このままインフレが続けば、実質賃金は上がらず、せっかく賃上げしても十分な消費回復は期待できません。
人件費の増大は必至、業務の効率化で生産性向上を
短期的な賃上げ要請に応じることは、その場しのぎでも可能です。けれど、賃上げを長期的に続けることができるかどうかは、生産性を上げながら業績を安定させていくほかに道はありません。2020年度の実質労働生産性(1人当たり)の上昇率は前年度比でマイナス3.4%と、3年連続で下がり続けています(日本生産性本部「日本の労働生産性の動向」より)。
1人当たり・時間当たりの生産性を上げることで人件費上昇によるコスト増加をまかなうのが健全な経営のやり方です。デジタル化や労務管理システムの導入などによる業務の効率化、従業員教育によるパフォーマンス向上といった努力を積み上げていくことが必要です。
資金繰りに余裕のない中小企業には、4月から施行された「賃上げ促進税制」のほか、「業務改善助成金」や専門家による相談など、さまざまな支援が用意されています。会社の事情に合わせて積極的に活用していきましょう。
●関連記事:「2022春闘、政府主導の「賃上げ」は景気回復につながるか?」[2022.2.3配信]
●関連記事:「『人的資本』情報開示の義務化、日本企業にとって本領発揮のチャンスに」[2022.3.30配信]
[2022.6.3]
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