物価高が止まらない、日本経済がスタグフレーションに突入する可能性は?
円安に終わりはあるのか 1ドル=134円台を記録、20年ぶりの安値更新
6月9日午前の東京外国為替市場で円相場が下落、一時は134円56銭近辺まで下がりました。2002年2月以来、20年ぶりの安値更新です。
このまま円安が進むと、日本の経済はどうなるのか。エネルギーや原材料の多くを輸入に頼る日本では、円安が輸入価格の上昇を招き、原材料コストの上昇分が価格転嫁されてインフレーションが起こるという悪いシナリオが考えられがちです。さらに目下、コロナ禍で落ち込んだ内需がいまだ回復していない時期でもあるので、インフレーションと景気後退が同時進行するスタグフレーションにつながるのではと懸念する声もちらほらと出てきているようです。
今のところ急激な物価上昇は抑えられている
これまで日本では、消費の停滞がデフレ圧力となっていたので、スタグフレーションは起きにくいとされてきました。けれども資源高・原材料高に円安が追い風となってインフレ懸念は確実に高まっています。新型コロナウイルス感染拡大とウクライナ危機という歴史的な出来事をきっかけに、デフレ状態が長く続いていた日本経済の潮目が変わったと見る向きもあります。
しかし実際は、原材料価格の高騰で企業物価指数が大きく上昇しているのに比べると、消費者物価指数の上昇はゆるやかです。つまり、原材料コストの上昇分の大半を企業が抱え込んでいるのです。
原材料コストの上昇が末端価格に反映されるまでにはタイムラグがあります。いま現在、値上げが行われている製品の原材料コストは、まだ昨年末あたりのコスト上昇分と考えられています。春先以降の一連の原材料コストアップや円安影響の値上げは、この夏から秋にかけて本格的に実施され、消費者物価にも影響が出るでしょう。
円安は輸出関連の大企業にはプラス、内需依存の中小企業にはマイナスに働くと言われています。コロナ禍で収益が悪化している中小企業にコスト高が追い打ちをかけ、賃金が下がると、消費は縮小してしまいます。中小企業の雇用は全体の7割をも占めているからです。こうなると、いよいよ本格的な不況です。業績のよい大企業は賃上げすべきと政府が謳う理由は、このような事態を避けることにあります。
悪いシナリオばかりが目につくが、景気回復の兆しも見えてきている
報道機関の習いとして物価高や円安のデメリットがことさら強調されていますが、先行きの見通しは不透明とはいえ、けっして悪い材料ばかりではありません。
6月7日、内閣府が発表した2022年4月の景気動向指数では、数ヶ月先の景気を示す「先行指数」が102.9で、前の月より2.1ポイント上昇しました。翌8日、日本経済研究センターが発表した4月の「景気後退確率」は10.9%となり、前月の12.5%から低下しました。景気動向指数の先行指数をもとに算出したのが景気後退確率です。景気後退の可能性を0~100%の数値で表わしたもので、値が大きいほど景気後退のリスクが高まっていることを示します。
3月下旬に新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置が全面解除され、小売業の販売も伸びました。10日には、外国人観光客の受け入れも再開し、インバウンド需要も期待されています。こういった明るい要素が景気回復の期待につながります。
今やニュースや新聞記事で「円安」「原油価格高騰」「物価高」などの単語を目にしない日はなく、世間では値上げに対する理解が深まってきています。このタイミングを逃さず、価格競争力の弱い中小企業も、今のうちにコスト上昇分の価格転嫁を少しずつでも進める努力が必要です。そうしておけば、今後、原材料価格がピークアウトしたときに利益を取り戻せるでしょう。
用語解説「スタグフレーション」景気が後退または停滞する局面なのに、インフレーション(インフレ、物価上昇)が同時進行する現象のこと。景気停滞を意味する経済用語「スタグネーション(Stagnation)」と「インフレーション(Inflation)」を合成した俗称。
●関連記事:「企業物価指数が記録的な高水準!価格転嫁が難しい中小企業にしわ寄せ」[2022.2.15配信]
[2022.6.10]
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