ユネスコ世界文化遺産に「明治日本-の産業革命遺産」推薦決定/「軍艦島」や釜石の高炉跡を観光資源に
世界文化遺産に「産業革命」推薦決定/平成27年登録目指す
政府は9月20日の世界遺産条約関係省庁連絡会議で、八幡製鉄所(福岡県北九州市)など稼働中の施設を含む「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」を平成27年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産に推薦することを正式に決めました。
本年度の推薦をめぐっては、産業革命遺産と文化庁の文化審議会が選んだ「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎県、熊本県)が競合。文化遺産への各国の推薦枠は年1件と定められているため、菅義偉官房長官が中心となって調整した形です。9月中に暫定版推薦書をユネスコに提出し、2年後の世界遺産委員会で登録の可否が審査されることとなります。
「軍艦島」など28施設で構成
産業革命遺産は「軍艦島」として知られる長崎県長崎市の端島炭坑など、幕末から明治にかけての重工業の発展を示す28施設で構成。福岡、山口、長崎など8県にまたがり、いずれも幕末から明治にかけての重工業の発展を示しています。
「軍艦島」端島は、長崎港から南西19キロの海上に浮かぶ東西160メートル、南北480メートルの小さな島ですが、明治から海底炭鉱として日本の近代化を支えた功績を持ちます。日本初の鉄筋コンクリート高層住宅を建設、昭和33年に人口が5,200人を超え「人口密度世界一」と言われたものの、49年の閉山後、無人島となりました。
およそ40年の間にくすんだ灰一色の廃墟と成り果てた物悲しい姿は、1,000年の歴史を持つ奈良や京都とは全く異なります。だからこそ、産業観光資源として復活することの喜びはひとしおではないでしょうか。
菅官房長官「復興支援に大きく貢献」
構成資産の中には岩手県釜石市の橋野高炉跡も含まれており、登録が実現すれば、岩手県にとっては「平泉の文化遺産」に続く2つ目の世界遺産。菅官房長官は、「最優先課題である復興支援に大きく貢献する」と強調しました。釜石からの候補入りは、東日本大震災の被災地への励ましになるとも期待されています。保全や景観はもちろん大切なことに違いありませんが、現役の施設も含む産業遺産は観光、見学による人の賑わいがあってこそとも感じます。
「ものづくり大国」ルーツ見直しで日本再生
それと同時に「近代日本のあけぼの」を象徴する時代の遺産の価値をしっかり受け止めたいもの。それが、今後の日本のあり方や経済再生につながるはずです。
徳川幕府が開国の方針を決めた後、日本はわずか半世紀で非西欧地域で最初の産業国家として変革を遂げました。世界の産業史でも極めて特異な成功例と言えるでしょう。この時代の特徴は、各藩ごとに自由に取り組んだ独自技術の開発。また、人材育成にも熱心でした。いわば、地方分権が産業の発達を促したことに着目する必要があります。
「ものづくり大国」のルーツをもう一度見直すことは、経済復興の途上にある日本にとって大きな意義があるはずです。
[2013.9.28]