自己破産にまで追い込む「個人保証」

日本では通常銀行が企業に融資する場合、保有する不動産や金融資産等が担保として提供されることがほとんどです。また、資産をあまり持たないスタートアップ企業や中小企業の場合、企業の経営者が個人保証しているケースがほとんどです。

 こうした融資ルールは、万一その企業が経営破綻などに追い込まれたときには、経営者や連帯保証人となった親族等が、担保として差し出した資産を債務の補填として手放さなければならず、場合によっては、すべての資産を失うことになります。こうした融資のスキームは日本特有のものといえ、「日本は一度失敗したら、二度と立ち直れない社会」といわれてきた所以でもあります。

一方海外では特殊なケースを除き、個人保証を必要とするケースはほとんどありません。

「個人保証」の問題点

こうした個人保証ありきの融資ルールに関しては下記のような点が問題点として挙げられます。

1. 経営者の個人資産が危険にさらされる

 企業が返済不能に陥った場合、個人保証を提供した経営者や保証人の個人資産(自宅・貯金など)が差し押さえの対象になります。事業と個人の財産が分離されないため、事業の失敗が個人の生活にも深刻な影響を及ぼすリスクがあります。

2. 事業承継が困難になる

 親族や第三者への事業承継の際に個人保証が引き継がれるケースが多く、後継者の負担が増えます。その結果、承継者が見つからず、企業の存続が難しくなることがあります。特に中小企業では後継者が個人保証を嫌がり、廃業を選択するケースも少なくありません。

3. 経営のリスクテイクが制限される

 個人保証を負っている経営者は、万が一のリスクを避けるために積極的な投資や挑戦を控える傾向があります。これは企業の成長を妨げる要因となり、長期的に見ると競争力の低下につながる可能性があります。

海外の融資ルール

一方海外では日本と違い個人保証が必要なケースはほとんどありません。その代りにどのような点が重要視されるのか見てみましょう。

1. 米国:信用スコアと事業評価が重視される

 米国では個人保証を求めない融資が一般的です。銀行は主に以下の要素を審査します。

  • 企業の信用スコア(Business Credit Score)
  • 事業の収益性とキャッシュフロー
  • 事業資産(担保価値)

 ただし、中小企業や創業時の融資では、SBA(中小企業庁)の保証付き融資を利用することが多く、一部では経営者に個人保証を求める場合もあります。しかし、基本的には事業の財務状況や信用履歴を重視し、経営者の個人資産への依存は限定的です。

2. 欧州:法人と個人を明確に分離

 ドイツ、フランス、イギリスなどの欧州諸国では、日本のように経営者の個人保証を求めるケースは少なく、法人と個人の責任を明確に分ける考え方が強いです。

  • 銀行融資は企業の財務状況や将来性を基準に審査
  • 中小企業向けの公的保証制度が充実(ドイツのKfW銀行など)
  • スタートアップや中小企業向けのベンチャーキャピタル(VC)やクラウドファンディングが発展

 そのため、経営者個人が多額の負債を抱えるリスクは比較的少なく、事業に失敗しても個人の生活が破綻するケースは日本ほど多くありません。

なぜ日本に無保証融資が定着しなかったか

日本に無保証融資が定着しなかった理由は、主に以下の3つの要因が挙げられます。

1. 銀行のリスク回避志向と「担保・保証文化」

 日本の銀行は、融資先の将来性よりも、担保や保証に依存する傾向が強いです。特に、バブル崩壊後の不良債権問題を経験したことで、銀行は「確実に回収できる融資」を重視し、個人保証を当然のものとする文化が根付いてしまいました。

また、日本の銀行は中小企業向けの信用リスクを適切に評価する仕組みが未発達で、米国や欧州のように「事業の将来性」や「キャッシュフロー」に基づいた融資を行うノウハウが不足していたことも影響しています。

2. 中小企業の財務基盤の脆弱性

 日本の中小企業は自己資本比率が低く、財務状況が不透明なケースが多いです。そのため、銀行としては融資先の信用力を判断する材料が乏しく、個人保証に頼らざるを得なかったのです。

 特に、中小企業の多くが非上場であり、決算の透明性が低いため、金融機関は「経営者個人の責任を確保することで融資の安全性を確保しよう」と考えました。

3. 銀行と企業の関係(メインバンク制)

 日本では、「メインバンク制」と呼ばれる、特定の銀行が企業と長期的な関係を築く金融システムが長く続いてきました。

この中で、銀行は企業経営に深く関与し、融資とともに個人保証や経営指導をセットにすることが慣習化していました。結果として、経営者の個人保証を融資の前提とする仕組みが固定化し、無保証融資が広がりにくかったのです。

変化の機運、金融庁の監督指針改正で、経営者保証が厳格に

このように国際的に見て非常識ともいえる日本の金融融資のスキームですが、近年少しずつですが、変化の兆しが出てきました。

2023年4月の金融庁の金融機関に対する監督指針改正によって、経営者に個人保証を求める手続きが厳格になってきています。

個人保証契約を中小企業に求める場合、

・その必要性を説明することが義務化

・銀行が説明した件数を金融庁に報告することも必要 とされました。

◆新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合

年度        件数        割合       
2015年度436,28912.2%
2016年度508,86214.4%
2017年度568,06816.5%
2018年度634,76619.2%
2019年度686,78521.6%
2020年度1,014,22327.6%
2021年度747,97130.7%
2022年度827,60233.9%
2023年度1,158,43247.5%

金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績」より当社作成

この表からわかるように、経営者保証に依存しない新規融資の割合は、2015年度の12.2%から2023年度の47.5%へと、年々増加傾向にあります。特に、2023年度には前年度比で約13.6ポイントの大幅な上昇が見られます。

この背景には、2014年に導入された「経営者保証に関するガイドライン」※の浸透や、金融機関による経営者保証に依存しない融資の推進が影響していると考えられます。しかし、依然として約半数の新規融資では経営者保証が求められており、さらなる改善が期待されます。

※経営者保証ガイドラインの3つの要件は、次のとおり。

  1. 法人と経営者の資産やお金のやりとりが明確に区分されている
  2. 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
  3. 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

これらの要件を満たすことで、経営者保証を解除する可能性が出てきます。

また、政府系金融機関の平均も「39%」(2019年度)から「57%」(2024年度上期)に大きく伸びており、信用保証協会が取り扱った件数の数も、「24%」(同)から「35%」(同)に伸びています。

今後期待させる「事業融資推進法」

こうした状況のもと、2024年6月7日に国会で成立した「事業性融資推進法」が注目されています。金融機関が設定する担保物件が、不動産や有価証券等の「有形資産」だけではなく、知的財産や事業ノウハウ、顧客基盤などを含めた「無形資産」も、企業価値として担保に加えることができるようにしたものです。

本法は、公布日から起算して2年6ヶ月以内に施行される予定であり、具体的な施行日は政令で定められます。

この法律の施行により、企業は不動産担保や経営者保証に依存せず、事業の実態や将来性に基づいた柔軟な資金調達が期待されます。

経営者の皆さまは、得力のある事業計画書の作成(市場分析、成長戦略、資金の使途など)や財務諸表の整理(正確な貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の作成)、売掛金・在庫などの資産管理の明確化(企業価値担保権の活用を想定)

などの準備を進めることが大切です。

関連記事:

2024.11.05 新しい資金調達の選択肢「企業価値担保権」に対する意識調査

2025.1.28  融資担保ルール明確新法要綱案

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