中小企業融資「事業性融資推進法」の解説


金融庁のデータから

2024年6月25日のブログで、企業融資の仕組みとして新たに成立した事業性融資推進法(以下、「新法」とする)について触れました。

新法2回目の今回は新法の概要について公開されている金融庁のデータから、紹介します。

 

新法の目的

新法は、事業全体を対象とした担保権を創設することで、不動産を目的とする担保権や個人保証に依存した金融機関の融資慣行を時代と流れに合うように是正し、企業の運転資金調達の円滑化を図ることを主な目的としています。端的にいえば、従来の融資判断の基準であった担保の在り方に新しい担保の考え方が加わったと解釈すれば分かり易いです。

今まで金融機関融資は①不動産などの固定資産の担保、②決算書の内容、③個人保証に頼っていましたが、新法では、新しく無形固定資産(有形固定資産)を含む「総財産」=企業の事業全体を評価して、担保になるといった制度です。それが「企業価値担保」です。

 

「企業価値担保」という仕組みが誕生

企業価値担保の目的は、将来キャッシュフローを含む「総財産」とされました。これは新しい概念です。担保を設定するときには事業(≒企業)の一体を担保とすることができるようになりました。従来から担保の対象となる土地や建物に加えて、ノウハウ・知的財産権等を含む無形資産も担保の対象とできるため、有形資産を持たないスタートアップ企業も金融機関から融資を受けることが容易になります。さらに”のれん”も担保目的財産に含まれます。(下表参照)

企業価値担保の範囲.jpg

 

企業価値担保権の設定当事者

企業価値担保権の当事者となるのは借り手(債務者・設定者)、貸し手(被担保債権者)、担保権者の三者となります。(下表参照)

借り手となるのは会社法上の株式会社・持分会社です。企業価値担保権は自己の債務を担保するためにのみ設定可能であり、他者の債務を担保するために設定することはできません。

他方、貸し手については、法律上、特段の制限は設けられていません。

また担保権者となることができるのは、新法で新設された「企業価値担保権信託会社」とされています。

企業価値担保権の設定当事者.jpg

 

(金融庁資料より当社作成)

 

担保権設定の枠組み

企業価値担保権を設定するには、借り手と担保権者の間で企業価値担保権信託契約を締結しなければなりません。(下図参照)この企業価値担保権信託契約に係る業務を行うことができるのが、企業価値担保権信託会社です。企業価値担保権信託会社になるには内閣総理大臣の免許が必要であり、指定後は内閣総理大臣の監督に属することになります。

 

<企業価値担保権設定の構図>

企業価値担保権設定イメージ.jpg

 

                               (金融庁資料より当社作成)

 

個人保証

企業価値担保権は経営者の個人保証に依存した融資慣行を是正することを1つの目的としています。そのため新法では、企業価値担保権が担保する債務を保証する保証人が法人ではない保証契約や、質権・抵当権・その他担保権で設定者が法人ではなく、生活の本拠として使用している自宅不動産や生活に利用している資産を対象としている契約などに対しては、権利行使ができないと規定されています。つまり個人資産は守られる仕組みです。ただし、借り手の企業が粉飾など貸し手に虚偽の報告をした場合にはその限りではないとされています。

 

担保の実行

借り手(債務者)が期限の到来にもかかわらず弁済を行わない場合には、担保権者(企業価値担保権信託会社)により、企業価値担保権の実行などの措置がとられます。

主な流れは下記のような手順で進みます。(下図参照)

A:担保権の実行手続開始

①担保権者が裁判所に申立てを行う。②裁判所は管財人を選任する。③管財人が事業の経営権や財産の処分権を得る。この時に管財人は可能な限り事業の継続価値を維持できるよう努めることになる。

 

B:事業譲渡:管財人は裁判所の許可を得て担保目的財産の換価を行う。

 
原則として、企業価値担保権の換価は事業を一体として維持・継続しながら、スポンサーに事業譲渡することが想定されている。

 
事業を譲渡する際に、裁判所の許可が必要。

 

C:配当

 
管財人が事業譲渡の対価から貸し手の貸付債権に対して配当を行う。

 
一般債権者等のために、事業譲渡の対価の一部を確保

配当まで終了すれば、裁判所が実行手続の終了を決定し、企業価値担保権は消滅する。

企業価値担保の実行手順.jpg

 

 

(金融庁「事業性融資の推進等に関する法律案
説明資料」より抜粋)


事業性融資を推進する支援体制

新法では、企業価値担保権の利用の促進・支援を行う機関として、主務大臣によって認定される「認定事業性融資推進支援機関」が規定されています。認定事業性融資推進支援機関(以下、支援機関)は借り手となる事業者や貸し手となる金融機関と契約を締結して、それぞれに指導や助言を行います。(下図参照)他にも、企業価値担保権の利用に関する啓発活動や調査・研究・普及に努めることとされています。

事業性融資を推進する新たな支援体制.jpgのサムネール画像

(金融庁「事業性融資の推進等に関する法律案
説明資料」より抜粋)

 

今後の展望

新法は公布の日から 2 6 カ月を超えない時期に施行されます。無形資産にも注目した企業価値担保権はスタートアップ等に対する新たな資金供給手段として活用されることが期待されています。

またスタートアップに限らず、固定資産を所有しない企業の経営者の方々にも、当該融資は新たな可能性をもっています。当局や金融機関の動きをしっかりとキャッチし、自社の成長性、収益性を語れるよう磨き上げていきましょう。

 

2024.06.25 中小企業融資 新法「事業性融資推進法」成立

 

 

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