日本企業に起きている「静かな淘汰」

近年、日本企業の倒産件数が増加しています。しかし、その実態は単なる景気悪化による倒産ではありません。
現在起きているのは、企業の体力差が徐々に表面化していく「静かな淘汰」ともいえる構造変化です。
コロナ禍では、ゼロゼロ融資や各種補助金、資金繰り支援策により多くの企業が支えられてきました。その結果、本来であれば市場から退出していた可能性のある企業も一定数存続しました。
しかし2023年以降、支援策の終了、原材料価格の上昇、人件費の上昇、そして金利環境の変化により、企業の本来の収益力や経営体力が問われる局面に入っています。
今回は、日本企業に起きている構造変化をデータとともに整理し、現在の経営環境の特徴と中小企業が取るべき戦略について考察します。
第1章 増え始めた企業倒産
まず、日本の企業倒産の推移を見てみます。
図1 企業倒産件数の推移
| 年 | 倒産件数 | コメント |
| 2020年 | 7,773 | コロナ初期 |
| 2021年 | 6,030 | 支援策で急減 |
| 2022年 | 6,428 | 底打ち |
| 2023年 | 8,497 | 急増開始 |
| 2024年 | 9,901 | 11年ぶり高水準 |
| 2025年 | 10,261 | 2013年以来12年ぶり1万件超 |

出典:帝国データバンク「全国企業倒産集計」より当社作成
コロナ禍の2020年から2021年にかけては、政府の資金繰り支援により倒産件数はむしろ減少しました。しかし2023年以降は増加に転じ、2025年にはついに年間1万件を超えています。
ただし重要なのは、この倒産増加が大企業の破綻ではなく、小規模企業の退出が中心であるという点です。
多くのケースでは
- 原材料価格の高騰
- 人件費上昇
- 借入返済の開始
といった要因が重なり、利益が確保できなくなった企業が市場から退出しています。
つまり現在起きているのは、急激な経済危機ではなく、企業の収益力に応じた市場の正常化とも言える動きです。
第2章 企業格差が急拡大している
現在の日本企業の特徴は、企業間格差の拡大です。
図2 企業の二極化
| 成長企業 | 苦戦企業 |
| 売上増加 | 売上停滞 |
| 価格転嫁できる | 価格転嫁できない |
| 人材確保できる | 人手不足 |
| 設備投資できる | 投資できない |
| 利益率上昇 | 利益率低下 |
同じ業界であっても、企業ごとの差が急速に広がっています。
例えば製造業では、独自技術を持つ企業は価格転嫁に成功し利益を確保しています。一方、下請構造の中にある企業では、コスト上昇を吸収せざるを得ず利益率が低下しています。
また人材面でも格差が広がっています。
賃金を上げられる企業には人材が集まり、教育投資も可能になります。一方、人材確保が難しい企業では業務負担が増え、生産性が低下するという悪循環が生まれています。
こうした格差は、今後さらに拡大していく可能性があります。
第3章 淘汰を生む3つの要因
現在の企業淘汰を生んでいる要因は、大きく分けて次の3つです。
①価格転嫁
インフレ環境では、価格を引き上げることができる企業は利益を確保できます。
しかし競争が激しい市場では値上げが難しく、コスト上昇を自社で吸収せざるを得ません。結果として利益率が急速に低下します。
②人材格差
日本では少子高齢化により労働人口が減少しています。
採用力の差は企業の競争力そのものに直結します。優秀な人材を確保できる企業は生産性が向上し、さらに成長する好循環を生みます。
③金融環境
長く続いた超低金利環境は徐々に変化しています。
金利が上昇すると、借入依存度の高い企業ほど資金繰りが厳しくなります。金融機関も貸出先の選別を強めるため、企業間格差はさらに広がります。
このように現在の企業淘汰は、景気の急激な悪化によるものではなく、価格・人材・金融という3つの経営基盤によって企業が選別される構造変化によって生まれています。
つまり今起きているのは「突然の倒産ラッシュ」ではなく、企業の競争力が徐々に問われていく静かな淘汰のプロセスと言えるでしょう。
第4章 危ない企業の共通点
倒産企業を分析すると、いくつかの共通点が見えてきます。
図3 危ない企業の特徴
| 特徴 | 内容 |
| 価格決定権がない | 下請構造 |
| 利益率が低い | 薄利 |
| 借入依存 | 自己資本不足 |
| 人材不足 | 採用できない |
| IT投資不足 | 生産性低い |
特に近年目立つのは、価格転嫁ができない企業です。
原材料費や人件費が上昇しても販売価格を上げられない場合、利益は急速に減少します。売上が維持されていても資金繰りが悪化し、最終的に倒産に至るケースも少なくありません。
また、自己資本が薄く借入依存度が高い企業も、金融環境の変化の影響を受けやすくなります。
さらに重要なのが、生産性の問題です。IT投資や設備投資が遅れている企業では、労働生産性が低く、人件費上昇の影響を直接受けてしまいます。
こうした要因が重なると、企業の経営体力は急速に低下します。
第5章 中小企業が生き残るための戦略
では、このような環境の中で中小企業はどのような戦略を取るべきでしょうか。
図4 生き残る企業の戦略
| 戦略 | 内容 |
| 価格決定力 | 独自商品・サービス |
| 生産性向上 | IT・AI活用 |
| 財務強化 | 借入構造改善 |
最も重要なのは、価格決定力を持つ企業になることです。
他社と差別化された商品やサービスを持つ企業は、価格競争に巻き込まれにくくなります。結果として利益率を維持しやすくなります。
また、生産性向上のためのIT投資やデジタル化も重要です。AIやクラウドサービスの普及により、中小企業でも比較的低コストで生産性を向上させることが可能になっています。
さらに、財務体質の強化も欠かせません。借入構造の見直しや自己資本の充実により、金融環境の変化に対応できる企業体質を作る必要があります。
これからの時代は、単に売上を伸ばすだけでなく、持続的に利益を生み出す経営構造を構築することが重要になります。
まとめ 新年度の企業環境はどうなるか
2026年度に向けて、日本企業を取り巻く経営環境は引き続き大きく変化していくと考えられます。
人手不足の深刻化、賃金上昇、金利環境の変化などにより、企業経営はこれまで以上に難しくなる可能性があります。
一方で、こうした変化は企業にとって新たな成長機会でもあります。
市場環境が変化する中で、
- 独自性のあるビジネスモデルを持つ企業
- 生産性向上に取り組む企業
- 財務体質を強化している企業
はむしろ成長を加速させる可能性があります。
現在日本で起きている「静かな淘汰」は、単なる企業数の減少ではなく、企業の質が問われる時代への移行とも言えるでしょう。
新年度に向けて、中小企業にとって重要なのは、環境変化を悲観することではなく、自社の競争力を高める経営改革に取り組むことです。
その取り組みこそが、次の成長を生み出す原動力となるはずです。
関連記事:
2026.2.26 第二次高市内閣で日本の産業政策はどう変わるのか
記事一覧
最低賃金1,177円時代へ――「賃上げできない会社」がこれから直面すること
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 09 / 08◆二十四節気◆令和8年(2026)9月7日「白露(はくろ)」です。◆
季節のお便り
2026 / 09 / 01人手不足国家・日本は外国人材で救われるのか?――2027年「育成就労制度」で変わる中小企業の採用
八木宏之の経済時事ウォッチ 未分類
2026 / 08 / 24◆二十四節気◆令和8年(2026)8月23日「処暑(しょしょ)」です。◆
季節のお便り 未分類
2026 / 08 / 18日銀はなぜ利上げを急ぐのか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 08 / 14◆二十四節気◆令和8年(2026)8月7日「立秋(りっしゅう)」です。◆
季節のお便り
2026 / 08 / 03骨太の方針2026を読み解く
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 08 / 02◆二十四節気◆令和8年(2026)7月23日「大暑(たいしょ)」です。◆
季節のお便り
2026 / 07 / 21日銀金融政策決定会合(6月)を読み解く(後編)
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 07 / 17日銀金融政策決定会合(6月)を読み解く(前編)
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 07 / 06◆二十四節気◆令和8年(2026)7月7日「小暑(しょうしょ)」です。◆
季節のお便り
2026 / 06 / 30◆二十四節気◆令和8年(2026)6月21日「夏至(げし)」です。◆
季節のお便り
2026 / 06 / 19日銀はインフレの原因を見誤っているのではないか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 06 / 172026年上半期の日本経済を総点検
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 06 / 09◆二十四節気◆令和8年(2026)6月6日「芒種(ぼうしゅ)」です◆
季節のお便り
2026 / 06 / 03「関税ショック」後の中小企業サバイバル戦略
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 05 / 292026年「骨太の方針」はなぜ重要なのか ― 中小企業経営者が知るべき“国家の方向性”と与党内のせめぎ合い
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 05 / 21◆二十四節気◆令和8年(2026)5月21日「小満(しょうまん)」です。◆
季節のお便り
2026 / 05 / 19大胆な投資促進税制とは何か
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 05 / 07◆二十四節気◆令和8年(2026)5月5日「立夏(りっか)」です。◆
季節のお便り
2026 / 05 / 02日銀「金融政策決定会合」から読み解く日本経済
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 04 / 29◆二十四節気◆令和8年(2026)4月20日「穀雨(こくう)」です。◆
季節のお便り
2026 / 04 / 17値上げは悪いこと?物価高時代に企業が取るべき経営戦略
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 04 / 17◆二十四節気◆令和8年(2026)4月5日「清明(せいめい)」です。◆
季節のお便り
2026 / 04 / 02日本企業に起きている「静かな淘汰」
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 03 / 31金融政策決定会合(3月)-中小企業経営者が知っておくべき金融環境の変化-
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 03 / 23◆二十四節気◆令和8年(2026)3月20日「春分(しゅんぶん)」です。◆
季節のお便り
2026 / 03 / 16エネルギー価格上昇に中小企業はどう対応するか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 03 / 12◆二十四節気◆令和8年(2026)3月5日「啓蟄(けいちつ)」です。◆
季節のお便り
2026 / 03 / 02第二次高市内閣で日本の産業政策はどう変わるのか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 02 / 26◆二十四節気◆令和8年(2026)2月19日「雨水(うすい)」です。◆
季節のお便り
2026 / 02 / 16【衆議院選挙後】新政権と金利上昇をどう読むか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 02 / 09◆二十四節気◆令和8年(2026)2月4日「立春(りっしゅん)」です。◆
季節のお便り
2026 / 02 / 01消費税減税は実現するのか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 01 / 31日銀金融政策の転換期をどう読むか
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 01 / 25◆二十四節気◆令和8年(2026)1月20日「大寒(だいかん)」です。◆
季節のお便り
2026 / 01 / 172026年度予算――規模・評価軸・企業経営への示唆
八木宏之の経済時事ウォッチ
2026 / 01 / 03◆二十四節気◆令和8年(2026)1月5日「小寒(しょうかん)」です。◆
季節のお便り
2026 / 01 / 02日銀・金融政策決定会合(12月) 利上げの背景と今後の政策運営
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 12 / 21◆二十四節気◆令和7年(2025)12月22日「冬至(とうじ)」です。◆
季節のお便り
2025 / 12 / 17取引適正化推進法(旧:下請法)とは?
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 12 / 10◆二十四節気◆令和7年(2025)12月7日「大雪(たいせつ)」です。◆
季節のお便り
2025 / 12 / 03外国人のビザ要件強化の背景とその影響
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 11 / 30高市政権×21兆円補正予算:中小企業に訪れる“追い風”
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 11 / 24◆二十四節気◆令和7年(2025)11月22日「小雪(しょうせつ)」です。◆
季節のお便り
2025 / 11 / 16ガソリン税ついに廃止!軽油も2026年にゼロへ
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 11 / 10◆二十四節気◆令和7年(2025)11月7日「立冬(りっとう)」です。◆
季節のお便り
2025 / 11 / 04どう変わる?日銀の10月会合に見る金融政策の行方
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 10 / 31高市首相、女性初の宰相誕生で経済政策に新機軸
八木宏之の経済時事ウォッチ
2025 / 10 / 21◆二十四節気◆令和7年(2025)10月23日「霜降(そうこう)」です。◆
季節のお便り
2025 / 10 / 19