今年のGDP成長「ほぼゼロ」/食料自給率引上げには被災農地の復旧が急務
GDP成長予想0.1%:震災で下方修正
「震災以来、消費者の動きが例年と全く違う。何をどれだけ仕入れるべきか、さっぱり読めない」とはとある小売業者の声。大震災の混乱から未だ脱しきれていません。
今年の日本のGDP(国内総生産)の伸びは、東日本大震災、原発問題の発生が大きく影響して、ほとんど見込めない様子です。世界銀行が6月7日に公表した世界経済見通し(改訂版)によると、予想される伸び率は0.1%。1月時点の見通し(1.8%)から大幅に下方修正されました。
破壊されたインフラの復旧に伴い、各方面で生産回復が図られてはいるものの、通年でも生産、消費の大幅な落ち込みを賄う程度に止まるとの見通しです。
企業行動の変化による影響/日本の実力「潜在成長率」も低下の恐れ
一方、復興需要の増加を見込み、平成23年に予想されるGDP成長率は2.6%増と上方修正が加えられ、その後も「緩やかな回復が続く」との見方もあります。
しかし、電力不足に対する懸念は影を落とし続けています。生産拠点を海外へ移す企業も増加しており、国内供給の低下や中小・零細企業の倒産増加も危惧されます。
さらに、震災をきっかけとした企業行動の長期的な変化が日本の潜在成長率の低下を招くとの懸念も広まっています。現在1%程度の潜在成長率が5年後には0%近くまで下がるとの試算も出ており、これを回復させるためには規制緩和や自由貿易体制の促進など、迅速な政策の実施が求められます。
*潜在成長率:国内総生産(GDP)を生み出すのに必要な供給能力を毎年どれだけ増やせるかを示す指標。技術革新などの生産性、工場や機械設備などの資本、労働力の3つの要素から算出します。
食料自給率UP計画にも暗雲
震災に伴う農業への被害は、被災地のみならず、大きなインパクトを与えています。政府は平成27年度までに食料自給率45%の実現を目指しています。しかし、食糧供給地域である東北地方が甚大な被害を受け、かつ放射能の不安、風評被害によって、現状のままでは目標数値の達成は大変厳しい道のりでしょう。
農林水産省によると、平成10年の日本の食料自給率はおよそ40%でした。政府は、国民を挙げての国産農産物消費拡大から、毎年1%ずつの自給率向上運動を推進。また安全・安心な農産物の安定供給に力を注いでもきました。しかし米農家の話では「一度壊れた田んぼが治るには数年かかる」というように、休耕田の活用や規制緩和策などを縦横無尽に打ち出してゆくべきではないでしょうか。
ちなみに、政府が先に発表した平成22年度版農業白書には震災特集が盛り込まれました。農地関係では、宮城の1万5,000ヘクタールをはじめ、福島6,000ヘクタール、岩手2,000ヘクタールなど、全体で2万3,600ヘクタールが流失や冠水被害を受けました。農林水産関係の被害総額は1兆7,746億円(5月18日現在)と推計しています。
醸造、グリーンツーリズム、バイオ:地域に根ざし、農業の先駆けに
被災農地の復旧が自給率の行方に影響することは間違いありません。同白書では本格復興に向け「災害に強い地域としての再生」「自然調和型産業を核とする活力ある産業の育成」「自然に根差した豊かな生活基盤の形成」をコンセプトに示しながら「被災地域の基幹産業である農林水産業の復興が何より必要」と強調。復興に当たっては、地域特産のみそ製造や日本酒醸造など6次産業、地域資源を生かしたグリーンツーリズム、バイオマス活用の農業推進など潜在的な魅力を評価したうえで、新たな農政の実現を願い、先進的な農業地域を目標に掲げています。
震災発生時は雪が降っていた東北地方でも田植えがほぼ終わり、夏に向かおうとしています。渦巻く不安を一刻も早く拭い、安全・安心な実りの秋を迎えたいと心から願います。
[2011.6.13]
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