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中小企業「私的整理」迅速化、多数決で事業再生可能に!「私的整理円滑化法案」

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多数決で私的整理を進める「私的整理円滑化法案」の整備が本格化
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9月4日、政府は岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の追加策を発表しました。骨子は、コロナ禍のゼロゼロ融資などで中小企業の「債務超過」問題が深刻化するなか、債務を軽減して早期の事業再建・再生を目指し、「私的整理円滑化法案」をさらに使いやすくするため、私的整理を債権者の多数決で進められるようにするとのことです。2023年の通常国会での法整備を目指します。昨年9月の第13回成長戦略会議で菅首相が検討課題のひとつに挙げた「企業の事業再構築を支援するため、私的整理を円滑化する法整備」がいよいよ実現されることになります。

私的整理のメリット・デメリット
私的整理とは、私的に債務を整理して、裁判所外で手続きを進めることができる、債務者・債権者間の合意に基づく事業再生を指すもので、法的整理と比べて費用、時間、手間がかからない、比較的簡易な手続きです。広く公表されないため、関係者が秘密を保持すれば私的整理をしている実態を知られませんから、商取引上の社会的信用が損なわれずにすむことも利点です。

反面、私的整理は、裁判所で行なわれる法的整理と違い、公権的なチェック機能が働かず、原則非公開で進められるので、手続きに不透明性が懸念されていました。企業の財務状況などが開示されない可能性もありますし、一部の債権者や金融機関にとって不利になるケースも予想されます。また、再建計画に同意しない債権者がいたとしても仕方ありません。

債権者全員の同意は手続きを減速させてしまう
このように、私的整理は簡易で迅速な手続きなのですが、それは関係者(とりわけ手続きの主宰者、債権者の委員長)の善意や誠意を前提とした話し合いで処理されるためです。しかし、それゆえに運用次第では公平・平等な結果が得られないこともあり得ます。

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」はこうした欠点を補い、より透明な手続きで私的整理を行なえるよう策定されました。法的拘束力はありませんが、関係者全員が自発的に尊重し遵守することが期待されるという紳士協定です。ガイドラインに基づく私的整理(ここでは再生型)の手続きは概ね次の図表のようになります。
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今回検討される私的整理円滑化法案で注目を集めているのは、図表③の債権者会議の段階で「債権者の多数決」で手続きを進められるようにするという点です。その際、多数決に加えて裁判所の認可を得ることが想定されています。

現状では、債権者全員の同意が必要ですが、どうしても意見調整に時間がかかってしまいます。これでは私的整理のメリットである迅速性が生かされません。時間が延びれば延びるほど、破綻の可能性が大きくなり、再生の可能性が小さくなります。

かつて日産の持株会社だったマレリホールディングスが、今年、事業再生ADR(裁判外の紛争解決。広い意味で私的整理のひとつ)を申請しましたが、債権者全員の同意が得られず、手続きは不成立に終わり、法的整理に移行したという報道は記憶に新しいと思います。

債権者全員の同意は、私的整理をスムーズに進める上で高いハードルで、事実上不可能でした。債権者全員の同意は平等性の確保に資するものですが、そのために手続きが遅れ、本来ならば再建できたはずの企業の可能性をつぶすことになっては取引先にとっても打撃です。手続きの透明性や債権者に対する公平性・平等性を確保しつつ、私的整理の迅速性を生かすような法案の策定は非常に困難ですが、現状に即した実現性のある法案になります。コロナ禍が長期化し、厳しい経営環境で踏ん張っている中小企業にとって希望のある法案に期待しましょう。
中小企業の皆様、もう少し踏ん張りましょう。


[2022.10.6]

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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
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