バイデン大統領が初来日、インド太平洋地域の安全保障と経済に積極的関与
バイデン米大統領、初のアジア訪問
5月22日、バイデン米大統領が日本を訪れました。バイデン大統領の初のアジア訪問の目的地は、中国ではなく日本と韓国でした。米大統領の日韓訪問はほぼ3年ぶりです。
今年2月、アメリカ政府は、中国抑止を最重要と位置づけた、安全保障と経済政策の指針となるインド太平洋戦略を発表しました。今回の日韓訪問はこの一環です。
ロシアのウクライナ侵攻後、国際秩序は大きく変化し、東アジアでは中国の脅威が増しています。そのさなかのアメリカ大統領のアジア訪問は、インド太平洋地域の安全保障に関与していく姿勢を積極的に打ち出すものでした。
台湾防衛と「核の傘」
23日の日米首脳会談後に行われた岸田文雄首相との共同記者会見で、バイデン大統領は、台湾海峡の平和と安定を支持し、一方的な現状変更がないように、武力で台湾を防衛する用意があると明言しました。沖縄や海上交通路(シーレーン)の防衛のために台湾が日本の安全保障にとって非常に重要であることは言うまでもありません。米大統領自ら、台湾を守るために武力行使も辞さない旨の発言をしたこと自体に抑止効果が期待できます。
また、アメリカの「核の傘」で日本を守る方針をあらためて確認しました。日米の首脳が核抑止の体制をアピールする背景には、近年、日本周辺で中国や北朝鮮が核戦力を増強していることがあります。くわえて、核抑止力の不在がロシアのウクライナ侵攻を許す一因になり、中朝に核の効力を知らしめたことで、アメリカの「核の傘」の抑止力の重要性が一気に高まりました。
中国に対抗する新しい経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」
23日、バイデン大統領は新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の始動を表明しました。世界の国内総生産(GDP)の4割を占め、インド太平洋地域での米国のリーダーシップを拡大することが狙いです。参加するのは米日韓印のほか、オーストラリア、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムです。
IPEFでは次の4つの柱でルール形成を行なうとしています。
①デジタル貿易
②サプライチェーン(供給網)
③インフラ・脱炭素
④税・反汚職
中国は東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)に加盟し、広域経済圏構想「一帯一路」なども進めていて、インド太平洋地域での存在感を増しています。アメリカはIPEFのような枠組みを構築して、経済面でも中国に対抗する仕組みをつくりたいという考えです。
日本・アメリカ・オーストラリア・インドの国力を合わせる「クアッド」
24日、日米豪印の「Quad(クアッド)」の首脳会合が行われました。クアッドは、日米豪印の4ヶ国で安全保障や世界経済について意見交換する枠組みです。Quadは英語で「4つの」を意味します。インド洋と太平洋を囲むように位置する4ヶ国が、自由や民主主義、法の支配といった共通の価値観を持って話し合うことが目的です。
2020年のクアッド4ヶ国のGDP(名目国内総生産)はおよそ30兆ドルで中国の2倍、国防費の合計額は3倍超にのぼります。クアッドは軍事同盟ではありませんが、過去に合同軍事演習も実施しています。
ただし、とりわけロシアと経済や軍事での関係が深いインドとは考え方が異なっていますから、共通の価値観というよりも、利害の一致を目指していくのが現実的でしょう。
激しい動きを見せた場外戦
バイデン大統領が日韓を訪問中、中国、ロシア、北朝鮮は挑発的な行為を繰り返し行ないました。
バイデン大統領のアジア滞在中、場外では絶え間なくきな臭い動きが見られました。アジアの安全保障環境はますます厳しくなっています。IPEFにせよクワッドにせよ、今後、経済と軍事を分けて考えるのはいっそう難しい状況になるでしょう。
[2022.5.27]
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