「人的資本」情報開示の義務化、日本企業にとって本領発揮のチャンスに
急速に進む「人的資本」の情報開示への動き
「人的資本」の情報開示を求める動きが世界各地で急速に進んでいます。
2020年、米国証券取引委員会(SEC)は新たな開示規制を発表し、人的資本の開示を企業に求めました。日本でも2021年6月、東京証券取引所がコーポレートガバナンスコードを改訂し、企業の人的資本や知的財産の情報開示を強化しました。
そして、今年2022年3月24日には金融庁が開いた金融審議会の作業部会で、人的資本などの企業のサステナビリティー(持続可能性)について有価証券報告書に記載を義務付ける方向で一致しました。
人的資本の情報開示は実質的に義務化されつつあるのです。
知識社会では「人材」はソフトなインフラである
「人的資本(human capital)」とは、シンプルに言えば、働く人の能力を資本とみなす経済学の概念です。
この考え方のもとでは、人材は企業にとって単なる労働力でもなくコストの要因でもありません。個人の能力や技能は経済的価値を創造するものであり、投資の対象であると捉えます。さらに、個々人の能力を伸ばしたり活かしたりする環境として、組織のあり方も含めて人的資本と呼ぶこともあります。
人的資本という考え方が注目されるようになった背景には、デジタル化、グローバル化、脱炭素の流れなどの環境の変化に際して柔軟に対応できる人材の重要性が増したことがあります。
近年、工業化社会から知識社会へ急激に移行するなか、企業の競争力はソフトウェアや特許などの無形資産になりました。そうなると当然、働く人は知識、経験、資格、専門スキルなどの能力を高いレベルで求められます。人材への投資は、企業の生産性を高めるためのソフトなインフラへの投資なのです。
「人を育てる」日本の企業風土の再評価を
現在、人的資本の開示の指針として国際標準化機構(ISO)、グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)、米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)などによるガイドラインがあります。最近では、ISOが策定した国際規格ISO30414を活用する企業が増えているようです。
どのガイドラインを用いるにせよ、人的資本という無形の情報を分析・定量化して開示することが、大企業のみならず中小企業にも遠からず求められることになります。
「米百俵」(※注)の例を挙げるまでもなく、中長期的な視点で人を育てていくのは、もともと日本の会社の得意とするところですから、人的資本の考え方は相性がよいと思われます。少子化が進むなか優秀な人材を確保するのが難しい中小企業にとっても「わが社は人を大切に育てている」と強くアピールする好機となるでしょう。
(※注)「米百俵」の精神:1868年(慶応4年)、北越戦争での敗戦後、食糧難に苦しんでいた長岡藩に、初代長岡藩主の血筋を継ぐ三根山藩より義援米が届けられたが、藩の大参事・小林虎三郎(1828-77)は米を藩士に分配せず、金に替え、学校の設立資金としたという逸話。非難の声があがると小林は「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」と諭したという。
[2022.3.30]
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