農業変革・発展の年:TPP参加でも国産農産物はなくならない/消費者意識の変化明らか
国産廃棄野菜のアイスクリームはデパートでも販売
食品製造会社の柚子庵(静岡県富士市)は、今年3月、全国の農家から集めた規格外の野菜を使用しアイスクリームを製造、ピーマンを克服した子供もいたと報道がありました。改めて日本人の技術や研究、工夫、創造力はどの国にも負けないと感じます。規格外野菜で作るジェラードタイプのアイスクリームは全国の農業関係者の注目を集め、これまで30種類の規格外野菜がアイスクリームに生まれ変わったと言います。同社では「廃棄する野菜を有効活用し、地元の野菜に興味を持ってもらうきっかけになれば」と規格外野菜アイスクリームを企画、注文が相次ぎ、今では各地のデパートで販売されていると言います。
規格外野菜を毎年1~2割廃棄しているという鳥取県の農家では、曲がったアスパラガスなどを同社に加工依頼し、都内のアンテナショップで販売したところ予想以上の売れ行きで「地元の野菜の良さを知ってもらえる機会になった」と喜びを報じていました。
農林水産省では、「規格外野菜は直売所で販売するか動物園などに提供されることが多く、アイスクリームにするのは聞いたことがない」とコメントしています。柚子庵の斉藤社長は「野菜の活用法に悩む農家のために、これからもいろいろな規格外野菜でアイスを作りたい」と意欲を見せています。
生産した野菜の4割が廃棄に
農林水産省では今年4月、春先の低温で野菜の流通が激減し、価格高騰から規格外野菜の出荷を農業関係者に呼びかけました。さらに10月にも猛暑の影響で価格が高騰、「野菜出荷安定対策本部」の初会合を開き、農協や市場関係者、小売業者へ規格外野菜の放出などを要請しました。同省が10月4~8日に行なった野菜の小売価格調査によると全国平均でレタスは約80%、約トマトが50%、約ネギは40%も価格が上昇していたようです。
そんな中で規格外野菜は売れ行き好調で、平成21年日経MJが発表するヒット番付でも「東の関脇」に選出されているのです。アジアを中心とした価格の安い輸入野菜がある中、不格好であれ、安心、安全、新鮮な国産野菜は消費者に根強く受入れられているのです。農協が定める野菜の色や形、品質、傷などの規定ではじかれた野菜は規格外とされ、流通されずに約4割が廃棄され、農家の収入を圧迫させて悩ませているようです。
約9割の消費者が規格外野菜を支持
ここ数年、大手の小売業者は中間流通を排除して直接農家と契約したり、自社で農場を運営するなど農業の流通が変わりつつあります。中間流通の排除は消費者に安く農産物を提供でき、規格外野菜も廃棄されることなくより安い価格で提供することができます。すでに日本の農業は変革し始めています。長引く景気低迷に消費者の財布のひもはさらに強く締められ、「安かろう悪かろう」では農産物は売れなくなっています。さらに平成20年には中国の毒入り冷凍餃子問題、汚染粉ミルク問題など消費者はより一層信頼ある日本ブランドを求めているようです。品質の良い農産物を安く購入するのが消費者の意識であり、規格外野菜はまさしくそれに適宜な品物となっています。
日本政策金融公庫が今年3月に発表した「規格外の野菜・果物に関する消費者意識調査結果」によると、規格外野菜・果物の規格に対する撤廃論が23.9%で、緩和も64.9%と88.8%が撤廃、緩和と、規格外野菜の質を重視した結果となりました。その主たる理由は「価格が安くなる」、「資源の無駄を減らせる」でした。
農業もグローバルスタンダード化へ
日本政策銀行の調査では、規格外野菜の購入に関して、購入経験者は60.0%で、このうち52.5%が「今後も増やす」と答え、購入したことのない40.0%のうち65.5%が「今後、購入したい」と答えています。国産の農産物は消費者に確実に支持されている裏付けです。購入する理由として「品質の割に価格が安い」が64.8%。「規格品と味が変わらないから」が55.5%と日本の農産物の信頼、品質を選んでいます。少しでも規格から外れれば廃棄へ。当たり前が当たり前でなくなる時代、「日本の常識は世界の非常識」と言われたことを覆す調査結果だと言えるでしょう。形の悪い野菜を捨てる国などあるはずもありません。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加で日本の農業は壊滅すると農業関連者から声も多い中、柚子庵のように企業努力で新たな事業、産業へ参入する企業もあります。これだけ消費者に国産農産物を支持され、形が悪い規格外野菜を受入れられています。すでに農業では変革が始まっています。平成23年は日本の農業変革、発展の年だったと後に言えるようになりたいものです。
[2010.12.29]
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