金融庁:モラトリアム(金融円滑化)法1年延長、緊急保証は借換え保証へ
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隠れ不良債権と揶揄
金融庁は12月14日、モラトリアム(中小企業金融円滑化)法を平成23年3月から1年延長し、平成24年3月まで延長すると正式に発表しました。金融機関などは、中小企業から条件変更の要請があれば返済猶予に応じる努力義務があり、中小企業の資金繰りの下支えとなります。自見金融相は、記者会見で延長を決めた理由として「先行きの不透明感などから今後も貸し付け条件の変更に対する需要は一定程度ある」とコメントしました。
同法の終了、延長を巡っては「借り手のモラルハザード(倫理の欠如)」や「金融機関の隠れ不良債権」と論議されていました。金融相は「金融規律も考慮し、実効性のある経営再建計画を策定、実行することが重要だ」と述べ、猶予期間が経営改善につながるしくみづくりに軸足を置くと述べました。猶予期間を与えられた中小企業は、安心し、ゆとりができ、行動のペースが遅れがちになるものです。猶予を与えられた企業は、この期間に資金繰りの改善、利益を確保できる事業への多角化、転業、新しい市場の開拓と動かなければ、いずれ時間とともに衰退してしまいます。
2大金融支援策が倒産回避
帝国データバンクの「11月企業倒産集計」の発表によると、倒産件数は935件と15ケ月連続して前年同月比を下回っています。上場企業の大型倒産もなく負債総額は2、739億2,300万円で3ケ月ぶりに前年同月を下回りました。下支えをしたのは政府の金融支援政策のモラトリアム(中小企業金融円滑化)法や景気対応緊急保証制度(緊急保証)でしょう。
モラトリアム法は1年延長が決定し、もう一つの信用保証協会による金融支援策、景気対策緊急保証制度は打ち切りとなり、代わりの保証となります。
緊急保証:35%が利用/金融公庫
日本政策金融公庫によると緊急保証を利用している中小企業は約160万社、約35%の中小企業が緊急保証を利用しています。保証枠は36兆円に対して平成22年12月現在、約22兆円保証されています。政府は、先の補正予算では緊急保証に代わる制度を「小口零細企業保証」に切り替えるとし、「借換え保証」を拡充するとしています。
限られる対象企業
「小口零細企業保証」は対象企業が限られ、保証残高や従業員の要件から外れてしまうと一般保証となる可能性があると懸念されます。また一般保証では、緊急保証と違い部分保証となってしまうため、金融機関などが新規融資を断わることが予想され、中小企業にとっては命綱を奪われることにもなりかねません。中小企業は、保証付きの新規の融資が受けられなければ資金繰りが悪化、コスト削減やリストラなど企業努力も追いつかなければ最悪の事態にもなります。
菅首相、緊急保証延長も検討?
平成21年、補正予算編成時に財務相だった菅首相は、緊急保証の対象を全業種に拡充し1年延長したものの、今年11月の国会での予算委員会で「趣旨は共感するところも多い。大畠章宏経済産業相に来年度予算に向けてさらに検討をお願いしたい」と答弁。厳しい状況下のなか、中小企業経営者にとってこの発言はあまりにも実情を知らず呑気としか思えません。
緊急保証制度延長で地銀再編も
モラトリアム法や緊急保証は多くの中小企業の下支えを行なってきました。政府は中小企業対策に多大に力を入れ、倒産という最悪の事態を防ぎました。しかし、その裏では金融機関、特に地銀の体力が低下するという危険性も強まります。メガバンク幹部は「全額保証の打ち切りは地銀再編の引き金になる」とも言い切ります。
リスケジュールによって返済の猶予、全額保証で中小企業経営者が一息つき、事業改善や収益力向上の努力をやめてしまうことは誰しも想像できます。「猶予や融資よりも仕事が欲しい」が中小企業経営者の本音なのです。収益のとれる事業、黒字経営、納税できる本来の中小企業の役割を今、考えるべきでしょう。そのための新市場の開拓、政府がすすめる成長産業への事業参加、将来を見据えた転業を考える時に来ています。
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[2010.12.16]
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