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臓器移植法違反の容疑でNPO理事逮捕、浮き彫りになった現行法の不備

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警視庁がNPOを摘発、無許可で海外での臓器移植斡旋か
2月9日、警視庁生活環境課はNPO法人「難病患者支援の会」(以下、「支援の会」)の実質運営者の理事長、菊池仁達容疑者を臓器移植法違反の疑いで逮捕したと発表しました。菊池容疑者は「斡旋した事実は認めるが、海外で行なわれる移植は許可が要らないと思っていた」と容疑を一部否認しています。

2022年1月11日に配信した「『臓器移植法』施行から25年、ドナー不足が引き起こす不条理な現実」の記事で、菊池容疑者が支援の会を隠れ蓑にし、金銭目的で渡航移植の仲介などを行なっているのではないかとの疑惑について、読売新聞が昨年夏に報道した記事の内容をもとに触れました。全容解明はこれからですが、臓器移植をめぐって利益を得ている団体が存在する背景には、一縷の望みをかけて渡航移植に踏み切った患者と家族が存在することを思うと、制度の不備と法律の隙間で利益を上げている団体に対する憤りを禁じ得ません。

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菊池容疑者の容疑は、厚生労働大臣の許可がないのにもかかわらず、都内の40代男性の親族に海外での移植をすすめ、渡航費用名目で現金3300万円を支援の会の銀行口座に振り込ませたうえ、2022年2月、ベラルーシの病院で死体から摘出された肝臓の移植手術を男性に受けさせた無許可斡旋容疑の疑いです。40代男性は移植後に体調が急変し、日本に帰国後、家族から生体肝移植を受けたものの回復に至らず、11月におなくなりになってしまいました。

支援の会のホームページには「海外医療機関へ移植希望者を案内する活動であり、臓器の仲介、斡旋は一切行っていない」「移植手術が全て成功した訳ではない。異国の地で命を落とされた方、帰国後ほどなく帰らぬ人となった方もいる」とあります。しかし、横浜市にある支援の会の事務所で、男性の親族に対して「ベラルーシかウズベキスタンかキルギスのいずれかで移植を受けるが、生体の臓器はあり得ない」「ぎりぎりの数値だから早くした方がよい」と言って急がせたなどといったことから、警視庁は渡航移植の無許可斡旋を日本国内で行なったと断定し、支援の会も臓器移植法違反の疑いで書類送検しました。

現実に追いついていない臓器移植法
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臓器移植法は、臓器移植医療の適正な実施のための法律です。1997年に施行され、2010年の改正で脳死下の臓器提供が可能になりました。臓器移植法には、移植手術に使うため脳死や亡くなった人の臓器を事業として斡旋するには厚生労働大臣の許可が必要と定められています。また、臓器の提供に対してお金を払ったり、払う約束をしたりすることも禁止されています。

現在、角膜を除く臓器の斡旋業の許可を受けているのは、公益社団法人の「日本臓器移植ネットワーク」だけです。それ以外の業者や団体が無許可で斡旋した場合、1年以下の懲役か100万円以下の罰金、または両方が科されます。今回、海外での臓器移植を無許可で斡旋した疑いでの摘発は国内初の事件となりました。

現行の臓器移植法のもとでは、国が監督できる対象は許可団体に限られていて、NPOなどの団体まで調査権限が及びません。国内のドナー不足を理由に海外での移植手術を希望する患者はそれなりに存在しています。無許可の仲介団体がそうした患者を狙うのには、こうした背景があります。

また、2010年の臓器移植法改正は脳死移植の普及のためであり、生体移植に関する規定はほとんどありません。支援の会が関わっていた途上国での生体移植についても法の枠外となっています。

筆者も支援の会での移植患者
臓器提供を待つ患者やその家族にとって、法の不備改正もドナー不足解消も、じっくり時間をかけながら議論して答えを出す類の問題ではありません。命の期限に追われている人からすれば、もはや緊急事態。みな藁にもすがる思いで日々を過ごしているのです。

筆者も、2014年、支援の会の斡旋仲介で海外での移植に踏み切りました。滞在費などを含め、支払った総額は3000万円ほどでした。新聞に出ている被害金額と、ほとんど同じです。移植した翌2015年には体調が思わしくなくなって、日本国内の病院に入院し、さらに再手術を受けました。2018年までには歩くことも困難になってしまって仕事もできず、2020年に腎臓が機能せず意識を失い、救急車で運ばれて緊急入院しました。挙句の果てに、2022年、親族にドナー提供者になってもらい、日本国内で再移植したのです。

こうして振り返ってみても、海外の医療のいい加減さと支援の会の杜撰さがわかる事例だとつくづく思います。

現状改善はとにかく急げ
松野博一官房長官は2月9日の記者会見で「無許可で行なったのが事実であれば大変遺憾だ。同様の事案の有無などについて厚生労働省が関係学会と連携しつつ、情報収集を行なっている。今後、同様の事案が生じないよう、臓器提供に関する正確な情報を発信し、国内の臓器移植が適切に行なわれるよう努めていく」と述べました。

無許可の業者に不透明な動きを許している原因のひとつに、現行法の不備があるのは明らかです。まずは生体移植も含めた法改正をできるかぎり早急に進めるのが政府の役割ではないでしょうか。そして、事件の背景にある国内のドナー不足について、マスメディアは、こうした事件が起きたときだけ思い出したように取り上げるのではなく、もっと頻繁に、根本的な問題に言及してほしいものです。

今回の事件は、ドナー不足や法の不備などの理不尽な現実と、進行する病状の両方に追い詰められた患者の弱みにつけ込む者が起こした事件です。できるかぎり迅速に現状を把握して改善を行なうことが目下の急務です。

[2023.2.13]

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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
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