最低賃金の大幅引き上げ3.3%、中小企業は助成金などの活用を!
大幅な引き上げ率3.3%、大阪府でも時給1,000円台に
8月2日、厚生労働省の中央最低賃金審議会から2022年度の最低賃金の目安が示されました。
全国平均で時給961円、前年度比で31円の上げ幅、伸び率は3.3%で、最低賃金が時給で示されるようになった2002年度以降で最大の引き上げとなりました。実際の改定額は、各都道府県で決定したのち10月をめどに適用されます。
2015年、安倍政権は最低賃金を毎年度3%程度引き上げて、全国平均の時給を1,000円とする目標を掲げました。それ以降、3%強ずつ伸び続け、現在のペースで進めば24年度には全国平均1,000円の目標額に到達します(コロナ禍1年目の20年度のみ、引き上げ額1円、伸び率0.1%でした)。東京都と神奈川県は2019年度にはすでに時給1,000円を超え、今年度は大阪府が1,023円と大台に乗るようです。
中小企業向け、賃上げ実施のためのさまざまな支援
最低賃金の引き上げで影響を受ける中小企業には、厚生労働省、経済産業省、中小企業庁などが連携して支援を実施しています。
業務改善助成金中小企業・小規模事業者が生産性向上のため設備投資など(※)を行ない、それによって事業所内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する。(※機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練など)
働き方改革推進支援センター経営改善に取り組む中小企業の相談窓口を開設。中小企業庁が実施する支援事業と連携してワン・ストップで対応する。専門家派遣、無料相談など。
そのほか、個々の中小企業・小規模事業者の実情に合わせて、さまざまなタイプの支援を受けることができます。
人材確保等支援助成金人事評価制度と賃金制度の整備のための助成金
キャリアアップ助成金非正規雇用労働者のキャリアアップを後押しし、正社員化・処遇改善のための助成金
中小企業向け所得拡大促進税制賃金引き上げによる増加額の一定割合を法人税額(または所得税額)から控除できる制度
企業活力強化貸付(働き方改革推進支援資金)事業所内で最も低い賃金の引き上げのための設備資金や運転資金を低金利で融資
家計を助けるための賃上げも、一部の企業には負担厳しく
政府が最低賃金の引き上げを押し進めるのは、消費を拡大してデフレ脱却を目指し、経済全体の底上げにつなげようというのが主な理由ですが、今年度、特に大きな上げ幅となった背景には物価高があります。
ウクライナ情勢や円安などの影響で、エネルギーや食料品を中心に消費者物価は上がり続け、生計費を圧迫しています。一方、5日に厚生労働省が公表した主要企業の春闘の妥結状況を見ますと、賃上げ率は2.2%でコロナ禍前の水準に回復したものの、急激に進む物価上昇に追いついていません。こうした現状を踏まえて、審議では最低賃金引き上げを求める労働者側の主張が特に重視されました。
しかし、企業物価は消費者物価よりはるかに高い水準で上がり続けています。企業物価と消費者物価の上昇率の差に、消費者へ届く手前のサプライチェーン内で多くの企業がコスト上昇分を吸収している実態がうかがえます。
東京商工リサーチが6月に実施したアンケートでも、「原価上昇分を価格転嫁できていない」と答えた企業が全体の6割以上を占めました。消費者は値上げに対して抵抗感が強く、企業が商品・サービスの価格改定に踏み切るのは容易ではありません。
東京商工会議所の三村会頭は、今回の最低賃金の大幅な引き上げに対して「非常に厳しい結果である」と述べています。特に、長期にわたるコロナ禍で経営が悪化した飲食業や宿泊業、企業物価の高騰を価格転嫁できずにいる小売業や下請け企業などでは、今後、最低賃金の引き上げに対応できないケースが出てくるでしょう。
8月10日、第2次岸田改造内閣が発足しました。改造後の記者会見で、岸田首相は「『人への投資』が『新しい資本主義』の実現の肝だ」とし、「必要な財政出動は躊躇なく機動的に行ない、切れ目のない対応を行なう」と強調しました。これから8月末の概算要求、年末の予算編成、税制改正、来年の通常国会への法案提出などが控えています。当面は大型国政選挙のない安定政権なのですから、政府には、価格転嫁しやすい環境整備や、中小企業の生産性向上の支援などの経済対策に腰を据えて取り組んでほしいと思います。
●関連記事:「最低賃金の引上げ幅、時間あたり25円で過去最高!全国平均時給848円に」[2017.8.18配信]
●関連記事:「最低賃金:都市部で大幅UP!東京1,000円台も視野に/広がる地域格差、地方の労働力流出懸念」[2017.8.24配信]
[2022.8.19]
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