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「臓器移植法」施行から25年、ドナー不足が引き起こす不条理な現実

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臓器売買と「イスタンブール宣言」
2022年12月27日、日本移植学会、日本臨床腎移植学会、日本内科学会、日本腎臓学会、日本透析医学会の関係5学会が共同声明を発表し、海外での不透明な臓器移植の根絶を目指すことを明らかにしました。

この共同声明が出されるきっかけのひとつになったのが、22年8月、東京都内のNPO法人が仲介した海外での生体腎移植手術で使用された臓器が売買されたものではないかと報道されたことでした。2022年8月7日の読売新聞では、金銭目的の渡航移植の仲介などについて違法性が指摘されました。共同声明によると「臓器取引や臓器摘出のための人身取引、また貧しく弱い立場の人々から臓器を購(あがな)うために海外に赴く患者など、数多くの事例が報告されている」とのことです。

共同声明は「イスタンブール宣言2018」の遵守の決意をあらためて表明しています。「イスタンブール宣言」とは、2008年、トルコのイスタンブールで国際移植学会と国際腎臓学会が開催したサミット会議で採択された宣言です。その後、情勢の変化を踏まえた2018年版が採択されています。

イスタンブール宣言では、臓器売買や移植ツーリズムの禁止、自国での臓器移植の推進、生体ドナーの保護などのガイドラインが提唱されています。これは、臓器移植の恩恵は必要とする人々に公平に分配されなければならない、しかし同時に、それが貧しく弱い立場にある人々に危害をもたらすような非倫理的行為や搾取的な行為に依存しないという理念に基づいています。

イスタンブール宣言が日本の臓器移植法の改正を促した
移植医療が始まったのは1960年代です。日本では1968年に札幌医大で国内初の心臓移植が行なわれたのですが、このとき、ドナーの脳死判定について宗教界からさまざまな疑惑が指摘されたことが社会の不信感を生み、その後の移植医療は停滞してしまいました。
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1997年、30年ほど経てようやく脳死下の臓器提供を可能にする「臓器移植法(臓器の移植に関する法律)」が施行されましたが、脳死下の臓器提供は増えませんでした。ドナー本人の書面による意思表示に加えて家族の承諾を求めるなど、あまりにも厳格なルールが課されていたからです。また、この意思表示は民法上の遺言可能年齢に準じ15歳以上を有効としていたので、15歳未満の子どもの脳死後の臓器提供はできませんでした。臓器移植を必要とする病気の子どもたちが、多額の募金を集めて海外に渡らなければならない状況は理不尽としかいいようがありません。しかも、「◯◯ちゃん募金」などと称して寄付を募る募金詐欺も横行しました。

その後、イスタンブール宣言で渡航移植が事実上禁止され、2010年に「改正臓器移植法」が全面施行されました。本人の意思が不明な場合にも、家族の承諾があれば脳死下の臓器提供ができるようになったのです。

ドナーの絶対的不足がさまざまな問題を生んでいる
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臓器移植法の施行から25年。改正臓器移植法の施行後は脳死下での臓器提供は増えましたが、心肺停止後も含めた全体の提供数は大きく増えず、年100件前後にとどまっています。

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人口100万人あたりのドナー数を見てみると、日本0.62、アメリカ41.88、フランス24.68、韓国8.56。日本は他国と比べて極端に少ないのが現状です。

日本でドナー数が少ないのは、日本では死者を敬い、遺体を傷つけたくないと考える人が多いためだと以前から言われています。しかし、内閣府の調査では、4割の人が「臓器提供をしたい」と答えていることから、日本独自の宗教や死生観だけが臓器提供を妨げているわけではなさそうです。むしろ、実際に臓器提供の意思表示をしている人が1割しかいないことに現状改善のヒントがあるでしょう。

また、欧米と日本では死亡判断に対する考え方が違います。事故などで脳死になったとしても、心臓が動いている人に「脳死だから臓器提供を!」と家族に訴えかける医療機関の判断にも基準が必要です。

イスタンブール宣言には「臓器移植は救命治療であるだけでなく、人間同士の連帯の象徴」と書かれています。20世紀最大の医学の進歩のひとつと言われる臓器移植。その恩恵はできるかぎりたくさんの人が受けるべきだと思います。

脳死判定やプライバシー問題など、臓器移植にはデリケートなテーマの議論が付きものですが、だからといってドナー不足を放置しておくわけにはいきません。ドナーが足りないせいで、いまだに多くの人が渡航移植を余儀なくされています。挙げ句、臓器売買や人身取引などの犯罪の温床になっているのは非常に悲しいことです。意思表示の簡略化や医療情報の共有など、できることはたくさんあります。助けを求めている患者のもとにドナーの臓器がスムーズに提供される仕組みをひとつひとつ丁寧につくっていくことが必要です。

[2023.1.11]

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八木宏之プロフィール
セントラル総研・八木宏之
株式会社セントラル総合研究所 代表取締役社長。連帯保証人制度見直し協議会発起人。NPO法人自殺対策支援センターLIFE LINK賛同者。
昭和34年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行系リース会社で全国屈指の債権回収担当者として活躍。平成8年、経営者への財務アドバイスなどの経験を活かし、事業再生専門コンサルティング会社、株式会社セントラル総合研究所を設立。以来14年間、中小企業の「事業再生と敗者復活」を掲げ、9000件近い相談に応えてきた。
事業再生に関わる著書も多く出版。平成22年5月新刊『たかが赤字でくよくよするな!』(大和書房)をはじめ、『7000社を救ったプロの事業再生術』(日本実業出版)、『債務者が主導権を握る事業再生 経営者なら諦めるな』(かんき出版)、平成14年、『借りたカネは返すな!』(アスコム)はシリーズ55万部を記録。その他実用書など数冊を出版している。
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