迫りくる「2024年問題」、トラックドライバー不足は解消されるのか
トラック輸送は、社会や経済を支える「物流」の中心
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、あらためて注目された物事のひとつに「エッセンシャルワーカー」の存在があります。エッセンシャルワーカーとは、私たちの暮らしや社会を維持するために欠かせない職業に従事する人々のこと。
そのなかで、これまで消費者の意識にほとんどのぼることがなかったのが、コロナ禍の巣ごもり消費で急増した荷物を自宅まで届けてくれる宅配便のドライバーです。昨日、ネットショッピングで注文した商品を今日受け取ることができるのは、けっして当たり前のことではありません。スーパーで新鮮な食品を買うことも、年中無休のコンビニエンスストアに常に商品が揃っていることも、モノを運ぶ人々のおかげではじめて可能になります。物流が「経済の血液」「産業の血液」と呼ばれるゆえんです。
物流業界の市場規模は29兆円ほど(2018年度、国土交通省)で、そのうち約7割を占めているのがトラック輸送です。
トラック輸送は、自家の貨物を輸送する「自家用トラック(白ナンバートラック)」と、他者の荷物を有料で輸送する「営業用トラック(緑ナンバートラック)」の2種類に分けられ、営業用トラックの事業者は全国6万社以上あります。ちなみに、霊柩車も営業用トラックに含まれます。霊柩運送事業者は4,700社ほどあります。
大多数のトラック輸送事業者が下請けの零細企業
このように、トラックは暮らしや経済に欠かせない物流の主役ですが、大企業はほんのひと握りです。営業用トラックを走らせる運送会社の9割以上が中小企業で、そのうちおよそ半数は従業員数10人以下の、いわゆる零細企業です。
物流業界は、数少ない宅配大手や物流大手が元請けとなり、そこを頂点として2次請け、3次請けと下に広がるピラミッド型を形作っています。
1990年に規制が緩和され、運送業が免許制から許可制に変わって以降、次々に新規参入する企業がピラミッドの底辺部を広げ、厚くしてきました。しかも、最近では、統計の数字に含まれない個人事業主のドライバーも増加しています。
「1割安い賃金、2割長い労働時間」トラックドライバーの現状
EC(電子商取引)の市場は拡大し、巣ごもり需要も加わって、宅配便の取り扱い個数は伸び続けていますが、一方、荷物を運ぶドライバーは足りていません。厚生労働省の調べ(2019年8月)によると、トラック運転手の有効求人倍率は2.79倍で、全職業の有効求人倍率に比べて2倍ほど高い水準で推移しています。物流を支えるドライバー不足は、もはや深刻な社会問題だと言ってよいでしょう。
しかし、ドライバーの労働環境は良くありません。全産業平均と比較して、トラック運転手の年間所得額は、大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者で約2割低いのが現状です。しかも年間労働時間は、大型、中小型ともにトラック運転者は全産業平均よりも約2割も長くなっています。
中小の運送会社がピラミッドの下部で低価格競争を繰り広げていることや、長年、歩合制で賃金が支払われてきたこと、非効率的な勤務スケジュールなど、いくつもの原因が重なった結果、業界全体ひいては社会・経済全体の構造的な歪みが、エッセンシャルワーカーであるドライバーにしわ寄せしていると見て取れます。
物流業界の「2024年問題」は社会全体で乗り越えるべきか
いま、物流業界が直面しているのは、残業の上限規制が始まる「2024年問題」です。2018年、「働き方改革関連法案」が成立し、2019年4月から改正労働基準法が施行されました。これに伴い、2024年4月から、トラックドライバーにも罰則付きで時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されることになります。
ドライバーの時間外労働が上限規制されると、
1人のドライバーで長距離を運行することが難しくなる
運賃を維持すれば、ドライバーの収入が減る
運賃を上げれば、荷主に契約を切られる恐れがある
といった、さまざまな影響が出てくると見られています。
運送会社が旧態依然としたドライバーの労働条件を改善し、勤務形態を整えて給料を上げていかないかぎり、人手不足は解消されないでしょう。しかも現在、世界的にエネルギー価格が高騰しています。それも含めて賃上げをするとなると、運賃の値上げは避けられませんが、価格決定力の乏しい中小企業には荷主との交渉は難題です。2024年4月の残業規制が始まることで、価格交渉力の弱い企業が淘汰されるというシナリオも考えられます。荷主企業はもちろんのこと、一般の消費者にとっても、商品価格には一定程度の物流コストが含まれて然るべきという考え方にシフトする時期が来たのかもしれません。
[2022.8.30]
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