「中小企業白書2022」を読む(1)「ブランド構築」が価格決定力を高める
「中小企業白書2022」が着目 ――「無形資産」への投資
2年におよぶコロナ禍、原材料の価格高騰や調達難などが重なって、中小企業は依然として厳しい経営環境におかれています。感染症対策、原材料高への対応、賃上げ、将来の事業継続に向けた投資など、いくつもの課題に同時進行で取り組んでいかなければなりません。
「2022年度版 中小企業白書」で政府が着目したのが「無形資産」への投資――具体的には、「ブランド構築」や「人的資本」への投資です。昨今、「人的資本」の重要性が急速に高まっているということを、「「人的資本」情報開示の義務化、日本企業にとって本領発揮のチャンスに」(2022.3.30配信)の記事でお伝えしました。今回は「ブランド構築」に注目します。
「ブランド構築」が企業価値を確実に向上させる
東京商工リサーチのアンケートによると、ブランドの構築・維持に取り組んでいる中小企業は36.8%です。およそ3分の2の企業は、いまだブランド構築を実践していませんし、必要を感じていないのかもしれません。
「2022年度版 中小企業白書」では、ブランド構築への投資が中小企業の「付加価値の向上」を促すとしています。裏付ける調査結果も出ています。
まず、ブランドの構築・維持の取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業に比べて売上総利益率が高くなっています。
さらに、ブランドの構築・維持に取り組んでいる中小企業経営者の55.9%が「取引価格の引き上げ・維持につながっている」と考えています。
今日の日本国内では中小企業に限らず原材料価格の高騰に直面しています。この調査結果は対応策がコストカットだけではないことを明らかに示しています。
ブランド力をつければ、価格に反映しやすくなるということは、すなわち、企業が自ら価格を決定する力を持つことです。原材料の価格が上がった時は、そのぶん価格転嫁するのが最もシンプルで健全な対策です。つまり、日頃からブランド構築に取り組むことは、売上アップにつながるだけではなく、非常時に経営危機に陥るリスクを軽減することにもなるのです。
もともと持っている会社の力を見つめ直そう
下請けや孫請けになることが多い中小企業にとって、値上げは高いハードルです。それでも、できるだけ強い立場で適正な取引にのぞむために、価格決定力を高めるブランド構築に積極的に取り組まない手はありません。
「2022年度版 中小企業白書」には経営改革の具体的な事例として40社ほどの企業が紹介されています。どの企業も自社の特徴や強みを研究し、生かすことで個性を発揮しています。
例えば、東京オリンピック・パラリンピックのメダルケースの受注を勝ち取ったことで話題になった株式会社山上木工は、北海道津別町にある従業員20名ほどの小さな会社です。山上木工の強みは、コンピュータで制御する高度な工作機械による「機械力」と、高い加工技術を持つ熟練の木工職人による「職人力」。自社ブランドやショールームを通して、この強みを世界に発信しました。
山上木工の「機械力」や「職人力」のように、ひとつひとつの企業はもともと独自の強みを持っているはずです。経済記事などで見かける「ブランド」という言葉の定義は実にあいまいで、つかみどころがないように思われるかもしれません。しかし、自社の持つ力を見つめ直し、磨き上げて、広く人々に認知してもらうプロセスが「ブランド構築」なのだと考えれば、やるべき課題はすぐに見えてくるのではないでしょうか。
そこで、ブランド構築の手っ取り早い手法は、他との差別化です。製品の開発秘話や研究開発の苦労話は、それ自体がブランド化の道筋になります。今までの当たり前がブランド化の第一歩です。書籍にするなど発信する手法はいくらでもあります。予算がなくても事業再構築助成金で「ブランド化」申請に取り組んでみる価値はあるでしょう。
[2022.5.11]
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